豪雪! 雪山の戦い!

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豪雪! 雪山の戦い!

 六郎とフィオナは西にある都市を目指し旅をしていた。今二人が旅をしているのは積雪で真っ白になった雪山であった。 「昨日まで草原にいたのに雪山とは、道は本当にこっちであってるのか?」 「地図で確認してるから間違いないと思う、もうすぐ村が見えるとはずなんだけど」  自分の体の二倍近いリュックを背負ったままフィオナは返した。  二人が歩みを進めていると白一色の景色に木製の建物が並んでいるのが見えてきた。 「おっ、あれか」  二人が村に近づくとどうやら敵の侵入を防ぐバリケードが作られているいるようだ。入り口以外は徹底的に防御を固めているらしい。 「これは、なにかを恐れてるって感じだな」 「山賊でもいるのかな?」  そんなことを話していると入り口のやぐらから見張りらしき男が声をかけてきた。 「ややっ! そこの方々は旅の方ですかな?」 「ああそうだ、悪いが中に入れてもらえないか?」 「今開けるので待ってくだされ!」  見張りの男は頑丈そうな扉を開けて招いてくれた。 「ささっ、どうぞ中へ「ポサド村」へようこそですぞ。」 「なんだか凄いバリケードだけど、山賊でもいるの? それとも危険な動物?」 「実は一ヶ月前からおかしな野盗の集団が度々村を攻撃してくるのですぞ、幸いまだ村人に被害はでておりませんがここは資源が少ない雪山、長期的に襲撃を続けられるといつ陥落するのかわからず皆恐怖しているのです」見張りは不安そうに話を続けた。 「あなた方もなるべく早くこの村を発つことをおすすめしますぞ。しかしやつらは騎兵が多く機動力に関して油断ならないんですぞ……」 「傭兵を雇ったりしないのか?」 「雇ったのですぞ! しかし村にお金があまり無くて強そうな戦士は雇えなかったのですぞ」 「その傭兵の人達は今どこにいるの?」 「この村より山を登ったところに陣地を築いているらしいですぞ」 「山賊はどこからくるんだ?」 「大体山を少し下った方角ですぞ」 「意味わからんな、傭兵はなんでそんなところに陣を構えているんだ……」 「わからないんですぞ、傭兵団は馬なんて荷物運び用程度しか連れていなかったし積んでた荷物は食料と剣と細い木の板だけでしたぞ。しかも兵士のほとんどはゴブリンだったですぞ」 「なんでゴブリン?」  フィオナは首をかしげる 「それもわからないんですぞ、まぁまぁお疲れでしょう、とりあえず今日のところは宿でおやすみくだされ」 「そうだな、いろいろ教えてくれてありがとう」 「どうもありがと」  見張りは笑顔を返すと再び仕事に戻った。  村を見渡すと内部は特に破壊されている様子は無い。外のバリケードは相当優秀なようだ。 「弓兵の練習用の的も配置されてるな」  即席で作ったであろう的の様子から如何に村人が危険に対して急ぎ対策の必要性を感じているのかが伝わってくる。 「長居はやめたほうがよさそうね、明朝この村を出ましょう」  既に日は暮れかけており外出しているの人の姿はまばらである。  二人は宿へ直行した。 「お客さんですかい」  宿屋の主人らしき男が話しかけてくる 「二人で泊まれる部屋を頼む」 「わかりました、はいこれ鍵」 「それと私達西の都市を目指してるんだけど、なにか盗賊や危険な怪物の情報はある?」 「あー、あるね。西の都市に行くなら港を経由しないといけないけど最近各地の港に海賊がでてるとかなんとか」  店主は思い出したように答える。 「海賊か、注意したほうがよさそうだな、ありがとう」  店主と別れ鍵をもらった六郎達は部屋で休息をとることにした。 「都市へはあとどれくらいでつくんだ?」  六郎は夕食をとりながら口を開く 「うーん、船にも乗って多分三週間くらいかな」  地図によるとそれまでにいくつかの街を経由していくことになるようだ。 「結構かかるな、そういえばこの世界にはゴブリンがいるんだな」 「えっ、六郎の世界にはいないの?」 「いねえよ!」 「ゴブリンは私達より背が低くてすばしっこいの。小さいぶん力は少し弱いみたいだけど」 「人間と一緒に働くものなのか?」 「そりゃそうよ、彼等だって文明人なんだから」 「へぇ、思ったより社会に溶け込んでるんだな」  六郎は面白そうに言った。 「そろそろ寝ましょう。明日も早いし」 「そうだな、おやすみ」 「おやすみ」 「こけーーっ!」 翌朝、六郎はニワトリの声で目を覚ました。 「もう朝か……顔を洗おう」  フィオナはいびきをかきながら爆睡していた。  六郎は外に出ると井戸の前までやってくる。 「雪山で顔を洗うなんて凍えてしまいそうだな。寒すぎて健康に悪そうだが」  すっきりしないのはもっと嫌なので震えながらも顔を洗う。冷えた空気が肌を突き刺すような感覚が襲ってくる。 「寒すぎる……」  六郎が凍えていると見張りの男が叫んだ。 「野盗ですぞーーっ!!」  その声に呼応するように村の門は閉められ村人は騒ぎ出した。 「傭兵団に合図を送れ!!」 「ドンドンドンドンドン」と見張りの兵達がドラムを叩く、どうやら音で合図を送っているようだ。  それに呼応するように「カッカッカッカッカ」と遠くから山彦のように返事が返ってきた。 「返事が来たぞ!! 彼等がくるまで時間を稼げ!!」  ドラムの音は規則的なテンポで音を送りあっているようだ。 「トーキングドラムみたいなものか、面白い技術を使ってるな」  トーキングドラムとは話太鼓とも呼ばれ、演奏によって遠方にいる人間との連絡を取り合う技術である。その飛距離は十キロ先まで届くとも言われている。  六郎は思った。こういうときに備えて一つ楽器を持っておくのは悪くないかもしれない。 「傭兵団までの陣地まで距離はどれくらい離れてるんだ」  六郎は見張りに聞いた。 「十キロは離れているのですぞ!」 「遠すぎだろ!」  危うし! 移動用の馬も持っていない兵隊が徒歩でその距離を移動するのは二時間半はかかるだろう。  六郎は見張りのやぐらに登り敵を確認することにした。  見ると麓のほうから馬に乗ったままダンスを踊る集団、ゆったりとした毛皮の服と帽子を身に纏っている。皆背中に槍や剣を装備しているようだった。 「「「「ウラーーーッ!!」」」」 「あれは、コサック騎兵じゃないのか!? やつらもこの世界に来ていたのか……」  コサック騎兵とはウクライナに存在した農奴制から逃亡した農民や没落貴族から組織されている共同自治体のことである。彼らは凍えるような厳しい環境下でも耐えることが出来る生存力を持ち、その戦闘力は並みの兵士に引けをとらないほどに強力である。  六郎は慌てて人数を確認すると三十人ほどか、村人は百人以上いるとはいえ戦いに慣れていない者が多い。バリケードが破壊されたらあっというまに皆殺しにされるだろう。  村人がバリケードを壁にして弓矢を構えると一人のコサック兵が躍り出てきた。 「ポサド村の諸君! 手厚い歓迎ご苦労なのだ!」  気品のあるヒゲと帽子を被った男が言った。 「我輩の名は「スヴャトスラーフ」なのだ、「スヴャータ」でいいのだ。以後お見知りおきをなのだ」  バックでコサック兵が踊り続ける中スヴャータは続けた。 「せっかく準備してもらって悪いのだが、武装解除をして中にいれて欲しいのだ。そうすれば諸君の命は助けると約束するのだ」  村人達は戸惑っている。下手に攻撃すれば皆殺しにされるかもしれないからである。 「おい、降伏したほうがいいんじゃないか……?」「そうだな、誰も死なずに済むなら……」 「まずいな、村人が戦意を失い始めている。だがこいつらが村に入ればわざわざ目撃者を生かしておくとは思えん……」  六郎がそう考えていると一人の村人が声を上げた。 「おい、お前ら! 降伏なんてかんがえているんじゃねえだろうな! 俺達はあいつらと戦うために今日まで準備してきたんだろ!?」一人の大柄な村人が叫んで他の者を鼓舞しているようだ。 「おいスヴャータ、俺達は絶対に降伏なんかしねえぞ!」 「『スヴャータ様』なのだぁ!!!」  瞬間スヴャータが投げた槍は大柄な村人の頭部を貫通し絶命させた。 「まったく、個人の意思で降伏か戦闘かをきめるのは良くないのだ。そういうのは自分が所属している団体でちゃんと話し合って決めるのだ」  仲間が一人死に村人の戦意はほぼ消えてしまった。 「でもまぁ、なんかムカついてきたので皆殺しにするのだ。お前達、突撃なのだ!!」 「ウラーーーッ!!」  恐怖、コサック兵の突撃! 「大変だーっ!」「弓兵!急いで迎撃しろーっ!!」  村人達は慌てふためいている中、弓兵が一斉に矢を放つ。 「コサックに飛び道具なんてふざけているのだ?」  コサック達のダンスはしなやかに弓矢を回避する。馬にすら村人の弓矢は当たらなかった。 「なんで弓矢があたらないんだ!?」  村人が口々に叫んだ。 「まさか、コサックダンスのせいか……?」  六郎は言った。 「そこの御仁、それに気づくとはなかなかできるようなのだ」スヴャータは自慢げに続けた。 「我々のコサックダンスは見た目異常に激しく多量の熱を発するのだ。おまけに馬の走る時の体温も合わさりかなりの高温になるのだ。それがこんな凍えるような雪山で踊ってみるのだ。すさまじい上昇気流が発生し、飛び道具は風とともにすべて上に流されるということなのだ。」  よく見ればコサック兵達の上空の景色が歪んでいる。 「それほどの熱気か!!」  六郎は驚愕した。 「ああ! やつら、バリケードを燃やす気だぞ!」  コサック達は火炎瓶をバリケードに投げこみ始めた。 「燃えるのだ! 燃やし尽くすのだ!」  このままでは十分とたたずにバリケードは燃え尽きてしまいそうだ。 「水遁は、だめだ。雪崩がおきかねん」  六郎は歯がゆそうに言った。 「もうだめだ!」「皆殺しにされてしまう!」「スヴャータ様命だけは!!」  村人は武器を捨て命乞いを始める。 「最初からそうしていればいいのだ。でも今回は殺すのだ。あの世で後悔するのだ」  コサックの雄たけびと村人の悲鳴が交錯した。 「くそ、フィオナを起こしてなんとか逃げないと!」  六郎が走り出したそのとき、山の上方から謎の集団がこちらに向かってくるのが見えた。 「なんだあれは!?」「ゴブリン達だ!」「傭兵団なのか!?」  村人は口々に叫んだ。 「嘘だろ、合図を送ってからまだ二十分も経ってないぞ!?」  六郎は困惑する。  五十人近いその集団は滑るように斜面を駆け下りてきた。よく見ると全員が足に木の板のようなものを装着し両手にサーベルを携帯している。ゴブリン達の中に一人だけ顔も隠れるほどの厚着をしてサングラスをかけた指揮官らしき人間の姿が見えた。 「何者なのだ!?」  コサック達が身構える。 「ハッカぺル!!(叩き殺せ!!)」  グラサンをかけた指揮官らしき人間の掛け声でゴブリン達は一直線にコサックへ突撃した。 「いいぞー!!」「がんばれーー!」  村人は指揮を取り戻し再び弓を構える。  コサック達はゴブリン達を迎撃しようとするが、素早く雪面を滑るゴブリン達にかわされてしまう。 「まさか傭兵がスキー兵の集まりだったとはな、これだけの戦力ならなんとかなるかもしれないな」  六郎は言った。  現代でスキーとは雪原を滑るための技術でありスポーツでもある。しかしスキーの原点は古く紀元前二千五百年頃から交通手段として使われていたのだ。その特殊な技術は後に戦争にも使用され驚異的な機動力が認められているのである。その時速は少なくとも急斜面であれば時速百キロ。助走をつければ時速二百五十キロを上回った記録もあるのだ。  対して人を乗せた馬のスピードは時速七十キロ前後、それも平地で走った場合である。雪原における機動性はスキーとは比較にならない。十キロという距離を滑り降りてきたスキーの速度は二百キロを超えていた。 「戦争だぁ!!」  ゴブリン達はポール代わりに使用していたサーベルを振り回しコサックの馬を切り刻む。 「ウワーーーッ!」  馬達はその場に倒れコサック達は雪の上に投げ出されてしまう、持っていた武器も雪に沈んでしまうものもいた。 「勝ったな、フィオナを起こしてくる」  六郎は勝利を確信し宿に戻ろうとした。その時。 「ぎゃああ!!」  一人のゴブリンが血祭りに上げられた。  コサック兵の凄まじい手刀が胴体に突き刺さっていたのだ。 「なにーーーっ!?」  村人達が驚愕する。 「お前達は間抜けなのだ? 我々コサックが生身で戦う術を持たないとでも思ったのだ?」  コサックダンスとはそもそもモンゴルから伝来した東洋武術が変化したものである。であればコサックダンスを会得するものは当然元となった武術をマスターしているのだ。寒冷地に適応した兵士が雪の上で戦えないわけがないのだ!! 「奴ら、馬の死体を足場にして……!」  雪の上に投げ出されたコサック達は馬を足場に迎撃の態勢をとった。 「ゴブリン達!囲んで叩け!!」  指揮官の合図でゴブリン達は少数で固まり再度突撃を開始する。 「食らえ!!!」  ゴブリン決死の突撃!しかしコサックは甘くなかった。  ゴブリン達の同時攻撃をコサックは容易にかわす。そして襲い掛かるゴブリンに飛びかかりその首をへし折った。 「うわーーーっ!!」「強すぎるーーっ!!」「もうだめだぁ、おしまいだぁ……! 勝てるわけがない……」  村人は弓矢で援護するもののまったく成果が得られず、士気はみるみる低下していく。 「あきらめるな!!」  六郎が村人を鼓舞する。 「くそ、これならいけるだろ!」六郎は印を結ぶ。 「火遁、火炎弾の術!!」  六郎は火炎を放ちコサックが足場にしている馬に火をつけた。  燃える足場に驚くコサック達。 「そうか!足場の馬を燃やしてしまえば!!」  村人達は気力を取り戻し、火矢を射掛け始めた。  しかし、コサック達は火矢を掴み、撃ってきた方向へ投げ返す。 「うわーーーっ!」「投げ返してきたぞーーーっ!」「火を消せーーーっ!」  足場が燃えてしまったコサックはゴブリンの死体を足場に移し変え始めた。 「貴様ら!許せんぞ!!」  仲間の死体を足蹴にされた傭兵の指揮官は憤怒する。二刀流のサーベルを使い加速していく。  その時速二百キロ、コサックは指揮官の攻撃をかわせずに切り捨てられた。 「わーーーっ!」「いいぞーーーっ!」「かっこいいーーっ!!」 「ほう、なかなかやるのだ」  スヴャータは拍手をする。 「貴様らの相手はゴブリン達に任せようと思っていたが、今ここで殺してやるぞ!」 グラサン指揮官は走りながらスヴャータを指差し突撃する。その距離五十メートル、しかし加速したスキー兵にとっては三秒足らずの距離である。 「一騎打ちなのだ? よかろうなのだ!!」  スヴャータは剣を構え待ち受ける。  グラサン指揮官の速度は時速三百キロに達していた。この測度で剣に触れれば容易に体が真っ二つになるだろう。  一閃、互いの剣が交錯しあい火花が散る。グラサン指揮官はスヴャータの周りを高速で移動しながら剣を打ち合っている。  「やはり強いのだ。我輩と互角に打ち合える人間は今までいなかったのだ」  「くそ! 必ず殺してやるぞ!」  しばらく打ち合った後、指揮官は距離をとり再び両者は互いににらみ合った。 「六郎、おはよう……」  寝ぼけ眼でフィオナがやってきた。 「お前遅いぞ! いいから戦う準備をしろ!」 「えっ、なにあの変な帽子の人達。こわ~」  その言葉をスヴャータは聞き逃さなかった。 「変な帽子と言ったのだ……?」  スヴャータは憤怒の表情で持っていた酒のビンをフィオナに向けて全力で投げる。 「もがっ!」  直後フィオナは酒ビンで顔面を強打し気絶する。 「割れなくてよかったな」  六郎は言った。 「邪魔が入って悪かったのだ。ところでそのサングラスいいものなのだ。譲ってくれないのだ?」 「そんな願いはお断りだぞ」 「残念なのだ。サングラスを傷つけずにお前を殺す自信がないのだ」  両者は再び向かい合い加速する。  刹那、指揮官は加速中に高く跳躍した。空中から直接馬上のスヴャータを狙う作戦だ。 「捨て身の一撃なのだ? すばらしい勇気なのだ!!」  スヴャータの首に二本のサーベルが接近する。しかしコサックの首領は甘くなかった。 「おしいのだ、おしいのだ。今ここで殺すのが本当に惜しいのだ」  スヴャータは馬の上で垂直にジャンプし攻撃を回避する。 「なんだと!?」  指揮官は馬の上に着地するが体勢を崩してしまう。 「死ぬのだ!」  頭上を取ったスヴャータは剣を振り下ろした。  震撼!鋭い一撃が首を狩ろうと迫る。  指揮官は半ば無理やりに体を回転させながら剣先をかわし、馬から飛び降りる。  致命傷は免れたもののスヴャータの剣に顔を覆っていた布が絡め取られた。  瞬間、編みこんだ美しい水色の髪が雪原に輝く。雪に反射した無数の光が指揮官の髪の一本一本を照らし出していた。白い肌は熱により紅潮しより愛らしく見えているようだ。 「やはり女だったのだ。さっきの我輩の攻撃を回避できる柔軟性、天性の才能だけでは説明できないのだ」 「なにーーーっ!!女の子だとーーっ!!」「しかもかなりかわいいぞ!」「天女だ……!」 「あいつ女だったのか……相当な使い手だな」  六郎は感嘆する。 「では改めて勝負なのだ、我輩の名はスヴャトスラーフなのだ。そっちも名乗るのだ」  スヴャータの言葉に指揮官は口を開いた。 「私はハンナマリ、傭兵団の指揮官だぞ」 「ハンナなのだ?いい名前なのだ。どうやらお互い同じ世界からきた様なのだ。その訛りは北欧出身なのだ?」 「話す必要はないぞ」  そう言うとハンナマリはサーベルで雪を掻き滑り出した。 「さぁ、来るのだ!」  助走は十分、ハンナマリのスピードは時速は二百キロに達した。  刹那、ハンナマリはスキー板を脱ぎ捨て高くジャンプした。そのまま空中で右手のサーベルを投げつける。 「そんな攻撃は無駄なのだ!!」 スヴャータはその場で跳躍しサーベルを回避、お互いに射程圏内といえるほど肉薄した距離まで近づき、そのまま剣を振り下ろした。 「終わりなのだ!!」 しかし、ハンナマリはもう一本のサーベルで攻撃を打ち返す。 「なっ、しまったのだ!!」 「До свидания!(ダスヴィダーニャ)」  剣を打ち返したハンナマリは時速二百キロに加速したまま蹴りを叩き込んだ。  高速の蹴りを顔面に食らったスヴャータの頭部はひどく湾曲し、体は吹き飛ばされ雪原に打ち捨てられた。  本来格闘家拳は時速三十キロ~四十キロと言われている。キックは当然それよりも低速ながら拳以上の破壊力を持つ。それが時速二百キロを超える速度であれば。人体は簡単に壊れてしまうだろう。 「ウラーーーッ! スヴャータがやられたぞ!!」 「ゴブリン達! 残党を叩き殺せ!!」  すかさずハンナマリは指揮を下す。 「うおおおっ!!」  ゴブリン達は逃げ腰のコサックを追撃し始めた。 「やったーーっ!!」「勝ったぞーーっ!」「ハンナマリちゃんありがとーーっ!」「かわいい~~っ!」  村人達は歓声を上げた。 「終わったの?」  数分後、痛そうに顔を抑えながらフィオナが起き上がる。 「もう終わったぞ、起きるの遅いな」 「なんかいいにおいがするけど」 フィオナが鼻を鳴らし村の外に目をやるとゴブリン達が残党を処理し終わり、コサックの馬を料理していた。 村内では怪我をしたゴブリンが次々と村に運ばれてきた。  必死に戦った傭兵達をねぎらうように村人達は手厚く看病をしている。 「そこの人」  六郎の背後からハンナマリの声がする。 「なんだ?」 「特殊な術といい、あの状況下でもあなたの瞳は熱く燃えていた。相当な使い手と見込んだぞ」 ハンナマリは再び厚着とグラサンで顔が隠れているが逆にそれがトレードマークとなっていた。 「傭兵団に入らないか? 報酬は約束しよう」  突然の勧誘である。戦いながらもこちらを観察されていたことに六郎は驚いた。 「悪いが俺は用事があるんでね。これから西へ行かないといけないんだ」 「西だと? 私達も西へいこうと思っている、またどこかで会えるかもしれないな」 「ボス、ちょっと来てくれ!」  一人のゴブリンが駆け寄ってくる。ハンナマリを呼びに来たようだ。 「すまないな、隊を再編成しないといけないから私はこれで」 「ああ、またな」  そう言って二人は分かれた。 「あの人がリーダーなんだ、強いの?」 「かなり強いな、雪の上で戦ったら間違いなく俺は負けるだろう」 「えーっ、そんなにー?」  六郎とフィオナが話していると見張りの村人が声をかけてきた。 「お二人ともーご心配かけて申し訳ないですぞ、でももう野盗もこの村にはこないはずですぞ。安心して西へ向かって欲しいですぞ」  そういうと再び見張りの仕事にもどっていった。 「そろそろ出発するか」 「そうね」 「しかし数日でこんなに向こうの世界の人間に出会うとは。日本以外の国からも既に大多数がきているのかもしれんな」  六郎は考えた。今回のコサックのように人を襲って生活している者達もいる。これは異世界という名の山賊に南蛮人が新しい武器をもって参入したようなものだ。危険度はより一層増しているといえるだろう。 「やれやれ、危険な旅になりそうだ」 「まぁ、なんとかなるでしょ」 「そう願いたいね、またコサックのやつらが再び襲ってこないとも限らんからな、早めにこの村を出よう」 「じゃあ急いで荷物をとりに行きましょう」  六郎とフィオナは宿屋に向かっていった。
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