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七不思議
赤色と黄色は止まれ。
青色は進め。
ではもしもそれが、紫だったら貴方はどうしますか?
私の小学校の前には交差点があります。
その交差点にはこんな噂があります。
「信号機が紫色の時、渡ってしまうと1週間透明人間になってしまう」
これは何年も前から伝わる七不思議のうちの一つだそうです。
「何にも怖くないよね、ここの七不思議は。」
私の友達のチカコちゃんは言いました。
確かにそうです。
うちの学校の七不思議は、
「3のつく日に給食を半分以上残すと先生に怒られる夢を見る」
「人体模型を壊すと3日間金魚になる」
「音楽室でおならをすると真夜中にベートーヴェンに会える」
だとか、怖くないものばかりなのです。
心霊現象が好きなチカコちゃんにはとってはつまらない学校です。
唯一怖いとされている紫信号機だって、チカコちゃんにとっては「1週間透明人間になった所でどこに恐怖があるんだ」と突っ込みたいところだそうです。
確かにそうですね。
七不思議というと、
「幽霊に取り憑かれる」
「真夜中に銅像が動き出して家まで追いかけてくる」
「トイレの花子さんは理科室の前にある、奥から2番目のトイレにいる」
とかいうのを想像していました。
現に、同じピアノ教室に通う隣の小学校のタカシくんの学校には、銅像が動き出すという七不思議があるそうです。
チカコちゃんはブランコに座って地面をつま先でぽんと蹴り上げました。
私の目には、ぎこちなく動くブランコが物足りなさを表す、チカコちゃんの気持ちのように映りました。
ところで皆さんに隠していた事があります。
実は私は今、紫信号の七不思議を体験している真っ最中なのです。
隣でブランコを漕ぐチカコちゃんには、私の姿が見えていません。
勿論他の誰からも見えないのです。
それは昨日の
事でした。
私は忘れ物をしてしまった事に気がつきました。
それに気づいたのは夜の7時です。
いつもなら取りに行くなんて面倒臭い真似は絶対にしないのですが、私が忘れたのは明日の算数の宿題だったのです。しかも、この間うっかり算数の宿題をやり忘れてしまい、先生に怒られたばかりでした。そういう訳で私は、それを取りに行かざるを得なかったのです。
その帰り道の事でした。
交差点の信号機が赤色から紫色に変わったのです。
初めて見る紫色の信号機に、私は妙な緊張感と好奇心を抱きました。5分ほど離れたところに住むチカコちゃんに知らせに行こうかと思いました。が、その間に信号機が変わってしまうかもしれない。そう思うと私は今しかないと思い、何も考えずに交差点の中へ足を踏み込みました。
「ああ、渡ってしまったのね。」
と、どこからか声が聞こえてきました。
私は辺りを見回しました。
まるで紫色でできた透明の眼鏡をかけているかのように、交差点の外はぼんやりと紫でした。
妙に長い間歩いていた気がします。
交差点を渡り終えたところに、女の子がお山座りでうずくまっていました。
「1週間後の同じ時間にもう一度ここを渡るの。そうすれば元に戻れるわ。」
女の子は顔を上げないままの状態で、恐らく私にそう言いました。
その日家に帰ると、何ともう1人の私がリビングで、お母さんとお父さんと弟のタカシと一緒にハンバーグを食べていました。
そして噂通り、やはり本当の私は誰からも見えていない透明人間でした。
私が目の前で手を振ろうが、おかしな顔を作ろうが、お母さんは何も反応をしませんでした。
私の偽物はご飯を食べ終えると、食器を流し台まで運び、火曜日と水曜日に当番の、お風呂掃除を始めました。
お風呂から上がりアイスを食べる偽物を見て、私は少し腹が立ちました。
しかしこれは大発見です。
透明人間になるというのは皆が知っている噂ですが、まさか偽物が現れるなんて初耳です。
これは元に戻ったらチカコちゃんに言ってあげなくては。
その日、私はウキウキした気持ちでリビングのコタツに潜り眠りました。
そして今現在、私はチカコちゃんの隣でブランコを漕いでいます。
チカコちゃんにはブランコが動いているようには見えていないようですね。
私はプイッとブランコから降りました。
そして、教室へ戻りました。
エミちゃんのランドセルを開け、中から交換ノートを取り出します。
私は知っているのです。
エミちゃんのグルーが、私の事を嫌っている事を。
私はその中身を片っ端から読んでやりました。
案の定、そこには私の悪口がたくさん書かれています。そして彼女達はそれを楽しんでいるようです。
ノートの中の文字はピンクやオレンジや黄緑などに色付けられています。それは、彼女達のお気に入りの音楽を流しながら、深夜の舞踏室にこっそり忍び込んでわいわい踊っているように、楽しそうな文字でした。
エミちゃん達によるとわたしは、「女の子ぶっていて気持ち悪い奴」なのだそうです。
どうにかして仕返しをしてやりたい。
私はそんな気持ちになりました。
そこで私はその交換ノートを、先生の机の中にしまい込みました。
勿論、先生の悪口がピンク色で書かれたページを開けた状態で。
「ひっひっひっ。」
唇の端っこから笑みが漏れました。
透明人間とは楽しいものです。
私はたくさん悪戯をしました。
コンビニのお菓子を盗んだり、クラスメイトのお部屋に忍び込んだり、知らないおばあちゃんの顔に落書きしたり。
そしてとうとう、あの日から7日が経ちました。
私は女の子に言われたとおり、交差点で紫色になるのを待ちました。
丁度反対側の道路には私の偽物がたった1人で立っています。
こんな時間に何をしに来たのだろう。
信号機が紫色になりました。
私は交差点の中に足を踏み入れます。
それを確認した偽物も交差点に入ります。
偽物は私に重なるように歩いてきます。
ああ、こうやって元に戻るのか。
私と偽物の体がぴったり重なりました。
その時です。
大きなクラクションが鳴り響きました。
「危ない!!」
私は大型トラックの下敷きになりました。
ここの学校の七不思議の最期の7つ目。
「七不思議を経験すると絶対に殺される」
私はそれを知りませんでした。
おしまい。
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