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同じ日の夜、中央大国ハーティ首都、ナンズデー州トムドサース。
そこは中央大陸の中でも有数な大都市であり、世界的に有名な観光地でもある。
都市の中心部ではなく、少し東の郊外に位置する場所には、この世の歴史と知識が全て納められていると謳われる国立図書館、”涅槃時計”が存在する。
横一列に並ぶ、巨大な七つの漆黒の時計台は、中央にあるものを除いて他は全て止まっており、それは世界に繁栄した六つの文明が滅びを遂げた時間を表していると伝えられている。
一方で、六人の”聖人”がこの世を去った時間を表すという逸話もあり、今も尚、動き続けている中央の時計台は、この現代のどこかに、”聖人”がまだ生き残っている証明であると言われている。
そしてそこは、秘密結社インフィニティの本部グランドロッジ。
中央と北、二つの大陸を裏で牛耳る巨大な秘密結社の中枢が、数億に及ぶ書物と共にここにあるのだ。
そんな観光地を目指す、五人の男達がいた。
彼らは遠くにそびえ立つ漆黒の時計台を視界に納めながら、幅の広い道路を一列に並び、徒歩にて移動している。
五人が歩く道路は、”涅槃時計”へと続く一本道。
片方二車線、分離帯も無い幅広の道路に車の往来はなく、横一列に並ぶ彼らは、前方や後方からの車を気にかけもしない。
理由は、辺り一帯に発令された避難勧告にある。
単身テロリストのノーフェイスとレイド・フッズエール。
一般市民は我先にと都市から逃げ出し、ハーティ政府は軍を動かしてテロリストに対抗。
これらは全て、彼らの思惑通りの状況である。
『……静かだな』
列の中央を歩くのは、黒衣にフードを被り、真っ白な仮面を付けた小柄な男。
左手には黒塗りの箱を握り、右手には異様な煌めきを放つグローブ。両足には白く強固なレガースを装着し、仮面の内側からはノイズ混じりの声をあげる。
”超人”、レイド・フッズエール。”顔の無い男”、ノーフェイスと呼ばれる最凶のテロリストも彼であり、それとは別に、”猛毒と共に歩く男”という異名を持っている。
トムドサースに出された避難勧告は、彼が原因によるものだ。
その影響で都市に人気は無く、幅広の道路を往来する車の心配もいらない。
「……」
レイドの右隣には、無言を貫く大柄の男。
スキンヘッドに、額には絡み合う二匹の蛇のタトゥー。目は大きいが青の瞳は小さく、鼻と口を覆い隠すように黒のネックウォーマーを着用している。
服装は、裾に赤い線の入った黒の修道衣。両の腰に取り付けたホルダーには銀色の拳銃。それ以外には、特に武器を持っているようには見えない。
秘密結社、月光修道会の生き残り。
”墓守騎士団”団長、アルバレス・ブルーティカ。
”月光墳墓教会”という場所の守護に就く役目を担い、今は亡き”墓場の大司祭”という人物に忠誠を誓っていた男。
「相手の準備は万端というわけか」
レイドの発言に自らの言葉を漏らすのは、右隣を歩くアルバレスではなく、左隣を歩く細身の男。
艶のある髪は黒く、肩にかかるほどに長い。目は細いものの、澄んだ緑色の瞳が覗いており、首元には裂傷痕が刻まれている。
黒一色の修道衣を身に着け、両の手には革製の手袋。右手には柄の短い、だが刃渡りの長い槍が握られており、その刃は円錐型で先端にいくほど細く、鋭い。
”円卓騎士団”副団長、ランスロット。
今は亡き”剣の聖堂司祭”が誇る騎士の中で、一対一の戦いにおいては最強と呼ばれていた男。
『てめぇらが余計な情報を流すからだろうが』
「ほっほっほ、準備万端なのはこちらとて同じだろうよ。それにしても、さすがに本部の近くなら人払いもするんだなぁ……”七国柱”と言うだけはある」
不満げな声をあげるレイドに答えたのは、列の右端を歩く大柄の男。
髪は短く、白い。右目は二本の裂傷痕で潰れ、左目にも一本の裂傷痕があるが、右側のものより短く、辛うじて目は無事だ。
左の頬には火傷痕。整った口髭が生えているが色は髪と同じで白く、ランスロットと同じ黒の修道衣を身に着けている。
見た目からしてかなりの高齢なようだが、決して弱々しいといった印象はなく、大柄で筋肉質。その右肩には、大岩に突き刺さり、刀身のほとんどを岩に覆われた巨大な大剣を担いでいる。
”円卓騎士団”団長、アーサー。
彼の呼び名は複数あり、南大陸では伝説となっている国を持たぬ老兵。
”戦場の主”という名は、南で活動する傭兵達の誰もが知る老兵であり、彼の本名ワート・プセタンスは、かつての”竜爪丸”の使い手、プセタンス兄弟の祖父にあたる証である。
『俺達に必要なのは”罪の都”に関する文献なんだろう? そんなもんが本当にあるのかは知らねぇが、仮に存在すんのなら、すでにドレスビースト辺りが持ち出してんじゃねぇのか?』
「例えそうであっても、トリスタンが情報を流して釣り出した敵の戦力を削るのも我々の任務だ」
レイドの意見に、ランスロットが再び口を開く。
『それなら、”満月騎士団”の生き残りが参加しねぇのは納得がいかねぇな。インフィニティの戦力を舐めてるとしか思えねぇ。過去にそれで、てめぇらは惨敗したんじゃなかったのか?』
「おいおい、俺がいるだろうが」
次に反応をみせたのは、列の左端を歩く大男。
短い金髪、瞳は青く、彫りの深い顔。何よりも特徴的なのは肩に羽織る黄金のマントであり、服装も白のスーツと、他と比べて異質なものだ。
”満月騎士団”、”第七騎士”。
”闘牛”、ベンジャミン・デルトロ。
彼は今回、唯一参加している”満月騎士団”の生き残り。
”宵闇”、アーカス・マルシエットを始めとした他の面々は、このハーティにすら来ていない。
『てめぇなんざ、戦力に数えられねぇって言ってんだよザコ助』
「なんだと? あぁん? もう一回ボコボコにしてやろうか?」
『誰がてめぇにボコボコにされたよ? ボコボコになったのはてめぇだろうが』
「アーカスやホワイトクロス様はもちろんのことだが、スレイドの存在も、まだインフィニティの連中に知られるわけにはいかないからねぇ。今回はお休みさ」
険悪なムードで言い合いを始めるレイドとベンジャミンに、アーサーが笑顔で割って入る。
「なぁに、心配はいらんさ。こっちには俺とランスロット。それに、”墓守騎士団”の団長様がいるからねぇ」
「誰であろうと、敵は殲滅するだけだ」
「……」
アーサーの発言に、つぶやきをあげるランスロットと、無言を貫くアルバレス。
「だから、俺もいるだろうが」
すぐに訂正を送るベンジャミンだが、彼の発言に反応する者はいなかった。
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