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とはいっても、”満月騎士団”は月光修道会における最高戦力。
その”第七騎士”を務めるベンジャミンの実力は、アーサーやランスロットからすれば今更確認するまでもない。
過去の戦争で戦ったレイドも、内心ではそれをわかっている。
”満月騎士団”を再び敵に回した時点で、インフィニティは警戒を強めているであろうことも。
故に、本部襲撃を迎え討つ戦力には、最低でも幹部が一人いるはずなのだ。
『でけぇ口を叩いちゃいるが、本当にてめぇら三人がアテになんのかよ?』
レイドが懸念しているのは、過去に戦闘経験のあるベンジャミンではなく、他の三人。
”円卓騎士団”と”墓守騎士団”は、インフィニティとの抗争の中心にはいなかった。
いわば、出番のなかった謎の戦力。
『敵はおそらく、規模のでかい戦力を本部に置いて待ち構えているだろう。対してこっちは五人しかいねぇ。てめぇらが俺の想像よりも使い物にならなかった時点で、今回の襲撃は頓挫することになる』
「ほっほっほ、舐めてもらっちゃ困る。これでも俺達は、当時の月光修道会を支えていた戦力だからねぇ」
レイドの発言に、余裕に満ち溢れた表情と口調で言葉を返すアーサー。
「……」
無言を貫くアルバレスも、どこか態度には余裕が溢れている。
「それに、敵の規模が大きかろうが、今回は関係ないだろう? その為にお前さんを協力者として連れて来たんだから」
『……本当にやる気か?』
「ホワイトクロス様の言っていた地下施設に影響が出ない範囲でな」
アーサーの言葉に問いかけを放つレイドに、ランスロットが答えを返す。
「ま、どうにでもなるだろ。夜明けまでに終わらせようぜ」
ベンジャミンは言いながら、自身の腕時計に視線を落とした。
時刻は午後10時を回ったところ。すでに今日の夜食を済ませたベンジャミンは、午前8時の朝食の時間まで下手に暴走する心配はない。
「必要なら、俺が敵の本部を爆撃して更地にしてやるよ。代わりに連中の死体の山を積みあげてな」
「それは敵の出方次第だがねぇ。こっちの面子で空中戦ができるのはお前さんだけだ。こちらが有利になれるよう立ち回ってもらわないとねぇ」
ベンジャミンの発言に、アーサーが意見を述べる。
「で、”超人”さんとしては、今回の敵の戦力にどう考える?」
『山脈に集めた戦力を向こうが動かさねぇのなら、メイスン部隊とその付属共がいるだろうぜ』
不意に問いかけを投げてきたベンジャミンに、くぐもった声を返すレイド。
「つまり、幹部ノワールとその部隊だな。付属というのは?」
『エルカニアの属国に置いてる部隊のことだ。どれも警戒に値するのは隊長くらいのもんだが、全員いると厄介だぜ』
次に、質問を放ってきたランスロットにレイドが答えると、ベンジャミンが何かを思い出したように自分の顎に手を触れ、満月の浮かぶ夜空を見上げる。
「そういや、ワルムダでの戦闘もノワールと奴の部隊……それにミルピードだったか? そいつらが居たみたいだ」
『ワルムダ? ヴィンソリスの漁村のことか?』
「ああ。お前のお仲間が、そこでインフィニティの戦力とぶつかったらしい。ミルピードの隊長は死んだと聞いたが……」
『ほう、ボマーのクソ野郎は死んだか。誰だか知らねぇがお手柄だったな』
「確か、やったのはトニー・バストエールだという情報があったな。お手柄なのは軽口の詐欺師だ」
『……トニーが?』
ベンジャミンの発言に、レイドは仮面の下で顔をしかめ、思考を巡らせる。
二人の会話にアーサーやランスロット、アルバレスは口を挟まないが、彼らは月光修道会側の人間として、”超人”であるレイドに対し、意図的に情報を隠した。
エルカニアの属国、ラクアッカンに置かれた特殊工作部隊ミルピードの隊長、ボマーを殺害したのは”満月騎士団”のアレックス。
しかしベンジャミンは、ワルムダの戦闘に”大火事”が関与していたという情報を隠し、ボマー殺害の手柄をトニーのものとして話を進めている。
漁村での激闘そのものを知らないレイドは、言われた情報から状況を推理する他なく、アレックス・モルエアが生きているという事実すら知らない為、ベンジャミンの言葉を信じるしかない。
「んでから、単身テロリストのDrパラノイアが、テムアスでタランチュラとやらの隊長を殺した。コードネームはウォリアーだったか?」
さらに、ベンジャミンはテムアス暴動事件に”BBC”の関与があったことも隠し、特殊隠密部隊タランチュラの隊長、ウォリアー殺害の手柄をDrパラノイアに押し付ける。
『……それが本当なら、メイスン部隊の付属は半分にまで減ってるってことか。ノワールがそれを重く考えてるなら、他にも戦力を呼び寄せてるかも知れねぇ』
「その可能性は高い。噂じゃ、メイスン部隊のコードネーム持ちも一人死んだって話だ。これもワルムダだな」
『コードネームは?』
「さぁな。金棒使いって聞いたが……やったのは海賊らしいぞ」
『アートルムを海賊が? そりゃつまり、ラッセルの馬鹿がやったってことだろ?』
「いや、やったのは海賊……奴隷惨殺兄弟の片割れだったはず」
『……ほう』
レイドは感心したような声をあげた後、自身の知らないところで起きていた戦力の削り合いについて深く考え込む。
エルカニアでの奴隷解放運動には、彼もノーフェイスとして参加していた。
その時に死亡したメイスン部隊のコードネーム持ちを含めると、ノワールの部下で警戒が必要な人材はかなり限られてくる。
(ブラックとアスワドが残ってるとしても、メイスン部隊は壊滅寸前だな。シュバルツのクソ野郎は生きてるんだったか?)
レイドが持っている情報に、シュバルツがルックスランドで死亡したことは入っていない。
(面倒なのはコマンドーとパニッシャーがいることだが……)
残る戦力に思考を注ぐレイドだが、すでにその必要はなかった。
「着いたぞ、どうやら敵も待ちくたびれてるみたいだねぇ」
アーサーの発言により、全員が前方を見据えて足を止める。
徒歩での移動にて、会話や思考を回している間に、五人は”涅槃時計”の入口、正門までたどり着いた。
『チッ、クソ共が顔を揃えてやがるな』
正門を越えれば、赤い煉瓦が地面に敷き詰められた広場がある。
そこで五人を待っていた者達を視界に捉え、レイドは不満げにため息をつき、ノイズ混じりの声をあげた。
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