インフィニティ本部襲撃

4/39
3205人が本棚に入れています
本棚に追加
/1023ページ
赤い煉瓦を基調として彩られた広場には、総勢で四百人を超える兵士達の姿がある。 ”涅槃時計(ニルヴァーナ)”に存在する全ての入口を塞ぐよう配置された軍勢は、ほとんどがメイスン部隊の装備を着ており、前列に並ぶ者達は本隊を表す喪服の集団。”黒”の部下達は国の守護に回らず、総動員されているようだ。 彼らは各々が様々な銃器や刃物を手にし、襲撃を待ち構えていた。 そんな軍勢から少し距離を置き、正門に近い場所に立つ、五人の男がいた。 「来たか……」 黒の短髪、黒の瞳。細身に喪服を着て、右の肩には蠍の尾を模す刃が取り付けられた、漆黒の長槍を乗せている。 メイスン部隊隊長、トラビス・メイスン。 ”黒”と呼ばれるインフィニティ幹部。コードネームはノワール。 「……ずいぶんと遅い到着だな」 彼は右手に握りしめた長槍を肩に乗せ、しゃがみ込んでいた体勢からゆっくりと立ち上がり、正門に現れた五人を順番に視界に入れる。 「……ていうかこれだけ? さすがに少ないでしょうよ」 その右隣で、ため息を混じりの発言をあげる細身の男。 目元までの黒髪を揺らし、右目には裂傷痕。喪服を身につけ、背には黒塗りの銃剣。 メイスン部隊副隊長、アスナベル・ディーノ。 コードネーム、ブラック。 「正面から素直に現れるとは……」 ブラックの発言に返すように、小さなつぶやきをあげるのも、また細身の男。彼はノワールの左隣に立ち、腕を組んで正門を見つめている。 長い黒髪を後ろで縛り、目は細く、鼻は高く、唇は薄く、顔は小さい。喪服を着ており、腰には銀に煌めく両刃剣が挿してある。 メイスン部隊所属、クリス・フォスタ。 コードネーム、アスワド。 彼の左隣には、未だ立ち上がらずにしゃがみ込む大柄の男。 短い黒髪に、顔には無数の裂傷痕。首元すらも埋め尽くされているところをみるに、それは黒のスーツで隠れている全身にも及んでいるのだろう。 右の腰には二本の手斧を挿し、左の腰には茶色のホルダーに納められた黒の拳銃。両肩から襷掛けに弾帯を巻きつけ、背には交差した二本の片刃の剣と、二丁の機関銃。そして両手には、砲身の長い突撃銃を抱えている。 特殊殺戮実行部隊デスストーカー隊長、クリスチャン・エムトンパトロ。 コードネーム、コマンドー。 彼は正門に現れた五人を見据えながらも、やはり立ち上がる素振りはみせない。いつも表情に貼り付けている挑発的な笑みも今はなく、眉間にしわを寄せながらため息をついている。 「これあれじゃないッスか? あいつらは囮で裏から突撃してくる本命がいるとかそんな感じッスよ多分」 そんなコマンドーの心情には関係なく、陽気な口調で声をあげる大柄の男。 ブラックの右隣に立ち、自らのスキンヘッドを左手で撫でる。顔の左半分は軽度の火傷痕に覆われ、左目には黒い眼帯。黒のスーツを着て、背には縦向きに、扇状に並べて広げた五本の鉾槌(メイス)を挿しており、腰には鎖付きの鉄球を何本も巻きつけ、右手には小振りの金棒を握っている。 特殊制圧実行部隊センチピード隊長、カッチャード・コックス。 コードネーム、パニッシャー。 以上の五名は、”涅槃時計(ニルヴァーナ)”の入口を塞いで広場の半分を埋め尽くす軍勢から離れ、正門に近い位置取りについていた。 「パニッシャーの言い分も一理あるかと」 「んなこたぁどうでもいいぜ。見ろよ、正面から現れたのは五人だ。数も質もちょうどいい」 アスワドが放った意見に対し、言葉を返すノワールは漆黒の長槍を肩から下ろし、煉瓦の敷き詰められた地面に突き刺す。 「あれが囮でも、レイドがいるなら無視はできねぇだろ? 裏側から別の戦力が来ても、こっちの配置にゃそうそう穴はねぇ」 ノワールの言葉通り、インフィニティ本部に集められた戦力は、広場にいる者達だけではない。 裏口にはデスストーカーとセンチピードの兵士達が陣を敷き、各要所を守るように本部守衛隊の人間が配置されている。 手頃な戦力を集めて迎撃の準備を整えるという元老院の指示に従い、ノワールがかき集めた様々な戦力が、本部を守る為に動いているのだ。 「俺達はまず、あの五人の相手を楽しもうぜ」 地面に突き刺した槍を引き抜き、正門に立つ五人に向けて踏み出すノワール。 その横で、背の銃剣を構えようともしないブラックは、懐から一冊の分厚い本を取り出していた。 「え〜っと? ”円卓騎士団”の中で最も警戒が必要なのはランスロットって奴でしたっけ? あとはアーサーとガウェイン……そいつらが来てるんですかね」 本を開き、ノワールが動き出す前に内容の確認を行う。 彼が取り出した黒い表紙の分厚い本は、かつての月光修道会との戦争をまとめた記録。 様々な部隊からかき集めた情報を、一人の幹部候補が詳細にまとめ、書庫に納めていたのだ。 「ていうか、あれって有名な老兵じゃないッスか? ほら、あの……でかい岩に刺さった剣を持ってる奴ッスよ」 不意にパニッシャーが、まだ遠くの正門に立つアーサーを左手で指差し、まるで子供がはしゃぐような態度で声をあげる。 「確か……”戦場の主(キャプテンウォー)”とか呼ばれてる奴ッス。南じゃあノワール様と対になる存在とかなんとか言われた奴ッスよ」 「なんでそんな詳しいんだかねぇ。てめぇは中央大陸の軍人で、前の戦争でもそんなに出番はなかったろうがよぉ?」 「いやいや、普通知ってるッスよ。南の傭兵達の間じゃあ、もう英雄みたいになっちゃってるッス」 不機嫌面で言葉を挟むコマンドーにも、態度を変えずに話すパニッシャー。 「”戦場の主(キャプテンウォー)”っていや、アーサーって奴の通り名みたいっすね」 「あいつがそうってわけか」 パニッシャーが出す情報を記録にて確認し、言い放つブラックへつぶやきを返すノワール。 「でもま、俺の相手は”超人”だけどな」 「じゃあじゃあ、あの老兵は俺が叩き潰してもいいッスか?」 それぞれ会話を交わし合うノワールら五人を尻目に、正門に立っていたレイドら五人が広場へと踏み入ってくる。 「”満月騎士団”の一人……”闘牛”。ホーネットから上層部にあがった情報にも間違いはなかったみたいっすね」 「色々と楽しめそうだ」 自身らに向けて歩いて来る五人をじっくりと眺め、ノワールも相手に向けて歩を進めていく。
/1023ページ

最初のコメントを投稿しよう!