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彼に続き、皆がバンから降りていく。最後まで助手席に居たヴィッキーは握りしめるように煙草を消すと、車を降りながら指で弾いて道路へ転がす。
「秘宝はそのままで大丈夫です」
巨大な泥溜まりが存在する枯れ草の平原の脇には、もう一つの車が停めてあった。
それは予めにジョンDが停車させてあったもので、彼が街に帰る為に使用するものだ。
秘宝の納品が行われる際、バンは秘宝を乗せたまま”倉庫”へと入る。それを運転するのは運び屋の役割ではなく、納品の立ち会いを任された幹部候補だ。
今回、その役目はノーマンとラフレシアが担うことになる。
「鍵はどちらに?」
「私がもらう」
ジョンDの質問に、答えるのはノーマン。
「ん? この車ごと”倉庫”に入るのかい?」
ラフレシアは納品の手順をよく知らなかったようで、バンの鍵を受け取るノーマンを見てから疑問を口にする。
「そうだ。場合によっては”倉庫”の中を移動することになる。徒歩で運べば何日かかるかわからんぞ」
ノーマンの言う通り、車ごと入るのは広大な”倉庫”を移動する手段が必要な為だ。
各地にはフランケンクレイが用意した泥溜まりが多数存在しているが、そのワープゾーンは彼女の意思次第で如何様にすることが可能な為、外部の人間が使うにはリスクが高い。
下手をすれば、泥溜まりを経由したことが原因で”倉庫”の奥地へと運ばれてしまい、永遠に出られない可能性すらある。
「では、お二人はこちらの車でお待ちください」
続いてジョンDは、もう一つの車のドアロックを電子キーで解除し、ヴィッキーとサンドマンへ呼びかける。
「……なぜだ? 私も中に入るつもりだが?」
言われたヴィッキーは、すぐに疑問を投げ返した。
今回は納品の立ち会いだけでなく、秘宝の出庫が執り行われる。その秘宝はヴィッキーに渡る手筈となっている為、自身が内部に入ることは当然と思っていたようだ。
「やめておけ。立ち会いは幹部候補が二人いれば問題ない」
ヴィッキーの疑問には、平原の近くに停まった高級車の側に立つサンドマンが答える。
「……だが、出庫される秘宝を受け取るのは私だ」
「さっきも言ったがこれ以上、巨蟹六本脚に何かあっては困る。ここで待っている方が安全だ」
発言を返すヴィッキーに、すかさずノーマンが意見を告げる。
現状の”晩餐会”が不安定だということは、この場にいる者達の中でノーマンだけが知り得ていること。
仮にヴィッキーが”倉庫”に入り、出られないという状況が起きてしまった場合、さらに大きな問題に発展してしまう。
それだけは避けたいノーマンは、ヴィッキーを場に残すことを選択。
サンドマンは倉庫番衆の一人である為、納品や出庫の立ち会いはできない。
「手続きは私とラフレシアでやる。我々が出て来た後で、お前に”鯖読”を渡す。これで何か問題があるのか?」
ノーマンはさらに、ヴィッキーへ高圧的な口調で言い放った。
彼女の目的が”超人”の解放なら、組織としては決して中に入れるべきではない。
”倉庫”に囚われている”超人”はスペンサー・ネックエールであり、ヴィッキーは彼と行動を共にしていた過去があるからだ。
その他にも、彼女を”倉庫”に入れない理由は存在している。
「それに……”危視能力”を持つ者が、この中にいる狂人共を視るべきではない。これはお前を守る為だ」
それをノーマンは、隠さずに説明した。
「……”晩餐会”とやらが持つイメージで、私に異変が起こると?」
「あくまで可能性の話だが、内部の連中に外の常識は通用しない。できる限り、リスクは回避しておくべきだ」
ノーマンはそう言って、バンの運転席へと乗り込んでいった。
「まぁ、それほど時間がかかるわけでもねぇだろうさ」
それを見たラフレシアも、肩をすくめてため息混じりの発言を投げ、助手席へと乗り込む。
「では、幸運を祈っております」
ジョンDが口を開くと、エンジン音と共に動き出したバンが平原へ乗り上げていく。
「二人が戻るまでに、騎士捜索の手順を話し合っておくか?」
「……」
サンドマンはそう尋ねたが、ヴィッキーは無言で泥溜まりに入るバンを眺めている。
「……あの泥沼が入口なのか?」
彼女の耳には、サンドマンからの発言が届いていなかったらしい。ただ純粋に疑問を投げかけ、泥に沈み始めたバンに注目している。
「牡羊座の秘宝が持つ力だ。あの泥溜まりは”倉庫”の中に繋がっている」
ヴィッキーに答えを返した後、腕を組んで立ち尽くすサンドマン。
やがて、バンは泥の中へと完全に沈み、皆の視界から消え去った。
今回の出庫に問題が発生することは確実。しかしそれを知るのは、自らバンを運転するノーマンのみである。
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