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……ぃつぅっ。
キリキリと痛む胃をスーツの上から押さえ、帆波コウは小さく息を吐いた。前も後ろもサラリーマンに囲まれギュウギュウのすし詰め状態の車内。毎朝のことだけれど息苦しくて辛い。
しかも今朝はパラパラと雨が降るジメッとした天気だった。車内の男達が発する熱で空気がどんどん膨張していく。蒸し暑い。窓も湿気で白く曇っている。不快指数はすでに百パーセントを超えているだろう。
このままでは自分は発狂してしまうのではないか。いや、他の人間だって発狂してしまうだろう。皆がそれぞれ鉄パイプや金属バットを振り回し、街を破壊する映像が頭を流れる。そんなパニックが起これば呑気に仕事もしてられない。僕も破壊行為をしてスッキリするかな……。でもせっかく仕事に行かないのなら映画館で大量のポップコーンとコーラ片手に映画三昧がいいなぁ。いやいや、究極のストレス解消といえばやっぱり……。
コウが現実逃避していると、天井からやっと空調の入る音と共にひんやりした風が流れてきた。エアーコンディショナーの空気を頬に感じホッと強ばった肩の力を抜く。
女性の軽やかで涼しげなアナウンスと共に電車のスピードが落ちていく。あとふた駅だ。駅に到着すると目の前の数人が降りていった。隙間が生まれ、斜め掛けしたショルダータイプのビジネスバッグがズルズルと落ちていく。
「おっと」
タスキ部分が肩から落ちていたことにすら気付いてなかった。
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