一条からの依頼

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「帆波さーん」 「ん?」  オフィスから出てレストルームへ歩いていると背後から塚田が追いかけてきた。今日は一日、外部から講師を招き会議室で電話応対とビジネスマナーの研修だった。 「お疲れ様です。へへ、連れション」 「お疲れ。どう? 研修は」 「最初はしどろもどろでした。だいぶ慣れましたよ。もう休憩です。飯行きましょうよ」 「いいよ。なに食べようかな」 「俺、蕎麦食いたいです」 「じゃあ、ヨシキチ行くか」 「初日に連れてってくれた店ですか?」 「そうだよ」 「そこ行きたかったんです」  塚田はニコニコ顔で子犬のようについてくる。コウはぼんやりとそんなキャラを羨ましいと感じていた。  図体はでかいけど、可愛げがあって良い。素直さを図々しいと感じる人間が多少はいるかもしれないけど、どことなく憎めない。こういうキャラは敵を作らないから得だと思う。悠斗みたいな人懐っこさとコミュニケーション能力があれば、僕も一条さんともう少しまともに会話できるかもしれないのに……。  目が合うだけで体がすくみ、緊張してしまう己が恨めしい。
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