お前にだけ話す秘密の話

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  ◇  そして俺と涼子は正式に付き合い始めた訳だ。俺は気にしなかったが、涼子はやっぱり雨で周りに迷惑かけることに罪悪感があったから、自然とデートの日は元々悪天候の日を選ぶことが多かった。  天気予報で曇りか雨のマークだったらデート。それが俺達二人の合図。  初めての旅行先は四国だったよ。全然雨が降らなくて水不足で困ってるってことだったから、俺達は堂々と旅行を楽しんだ。滞在中は嵐のような大雨でさ、旅館のテレビで天気予報を見たらリポーターが困惑してたよ。 『見てください。恵みの雨でしょうか?! 天気図では、台風どころか低気圧もなかったはずですが……』  そんな姿を二人で見て、俺達は顔を合わせてケラケラ笑った。海外の雨が少ない地域に移住するのもいいかもね、なんて話をしたのも覚えている。そうして順調に交際が進み、俺はあるタイミングを待っていた。  なんだと思う?  その日は元々デートの約束はなかったけど、どうしてもその日でなくてはいけなくて俺は彼女の家に行くと電話で告げた。流石に今日はやめた方がいいと言われたけど、俺はどうしても行きたいと言って電話を切ったんだ。  だって、その日を逃したら次がいつかわからないからな。外は強風と雨が吹き荒れていた。覚えてるか? 去年の今頃にあった台風。  台風17号――ここ数年で最も大きいと言われた巨大台風の日だよ。  こんな日に出かけるなんて馬鹿のすることだ。だが、俺の中には奇妙な高揚感があった。彼女と付き合うようになってから一式揃えたレイングッズ。    やっとわかっただろ? ここで登場するのがこの傘って訳よ。    グラスファイバーを使い物理力学の粋を集めた最強の耐風傘(税込44990円)、全身を覆う黒いレインコート(膝下までのウルトラロング、顔全面を覆う透明カバー付き)、フットカバー、長靴(ロングタイプ)を俺は身にまとった。その鎧のような重装備ぶりに、まるで戦地に向かう軍人のようだなと俺は部屋でニヤリと笑ったもんだ。 (おっと、一番肝心な物は持ってるよな?)  俺はリュックの中に小さい箱が入っているのを確認し、いざ戦場へと躍り出た。予想通り、凄い雨と風だ。雨粒が弾丸のように俺の体を激しく打ち付け、その音はさながらロックのビートのようだったよ。公共交通機関は使えないので、電車なら20分の距離をニ時間かけて歩いて行く。 (ハハハッ! 雨がなんだ、台風がなんだ! 今日は最ッ高のプロポーズ日和だぜッ!!!)  俺はワイヤレスイヤホンから聞こえるREDsのサウンドに合わせながら暴風雨の中を走った――!
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