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魔王に飼われて、だいたい二週間ぐらいが経った。
流石に檻の中では生活しづらいだろうと檻から出してもらった俺は、今日も平和に筋トレ中だ。
「百八十一……百八十二……」
壁の出っ張ったゴテゴテの装飾に足をかけて、捻り懸垂。
魔界の天気は移ろいやすいが、本日は晴天なり。部屋から出られない俺には関係ないが、なんとなく機嫌はよくなる。
首にかけられた黒い紐状のチョーカー。
このチョーカーは檻から出す代わりに魔力を完全に封じる、ということで着けられた魔導具だ。
装備一式も返してもらっていない今の俺は、ただの人間に毛が生えた程度の戦闘力しかない。
当然のように痛いことは嫌いなので、俺は部屋から出るなという命令に逆らわず怠惰な日々を過ごしているのだ。
ちなみにトイレとシャワーは部屋に続く扉の先にある。食事は日に三回だ。一つ目の大きなコウモリのような魔族が、器用に盆を浮かせて持ってきてくれる。
カタコトでしか言葉を話せないコウモリモドキたちは、どうやらこの城の使用人的なものらしい。
俺の世話をするよう言われた一匹のコウモリは名前をつけてあげたので、呼べばやって来る。パタパタと飛び回る働き者の彼らはとてもかわいい。
とはいえ忙しいところを構い倒すのは申し訳ないし、俺の部屋には今のところ魔王しか来ないので、俺はどんどん一人遊びの上手い勇者になっている。
そうそう。ファーストコンタクトで叫びながら逃げていった魔王は、あれから一週間姿を見せなかったからな。
三日前ぐらいからようやく顔を出すようになり、相変わらず凶悪な形相で俺を睨みつけてきた。
二度目に会った時には「あれを俺以外にするなよ。絶対にだぞ。お前は血の一滴まで俺のものなんだからな!」とよくわからないが叱られた俺である。
うんうん、自分のオヤツが減るもんな。
魔王は血を吸いに来ているのに、毎度なにかしら話しかけてくる。
──魔族は残忍で冷酷な人間の敵。
そう教えられていたのに、意外なまでに俺の家畜生活は平和なものだった。
「ん」
ガチャ、と扉の開く音がしたので、装飾から足を離してふかふかの絨毯に降りる。
俺の体をポスンと受け止めてくれた絨毯を踏みしめて、額の汗を拭いながら扉に向きなおる。
そこには案の定、見慣れた男が一人いた。
いつもの凶悪な形相で俺を睨みつけ、そろそろと歩み寄ってくる。
一応勇者に警戒しているのか慎重に近づいてくるものだから、俺は内心で少し野良猫みたいだなぁ、と笑ってしまった。
「お前、そんなことするな。不健全な顔になってる……!」
「は?」
少し乱れた呼吸を整えながらパタパタと手で顔を扇ぐ俺を、キレ顔の魔王がビシッと指さした。どこがだ?
それを言うなら地味顔の俺よりよっぽど派手な魔王のほうが、婦女子たちに不健全な顔つきだろう。失礼極まりない魔王である。
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