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「薄力粉だとか強力粉だとか、違いがわかんないや」
薄力粉が小麦粉だということはわかる。
スーパーで買う小麦粉はいつも決まっていて、パッケージで判断しているから、それがどちらなのか意識したことがない。
「家で料理しないの? 桐谷先生がしているの?」
「半々かな。買ってきたり、出前だったり」
「家庭料理を作らないのね」
「母に任せっきりだったからなあ。いなくなってから食べていない」
(そろそろ、自分が作ってもいいのかもしれない)と、一翔は考えた。
「お母さんはどこへ行ったの?」
「亡くなった」
有希が気の毒そうな顔になった。
「それで、桐谷先生と二人で暮らしているのね」
「そうだ」
「桐谷先生って、家ではどんなお父さん?」
だんだんと、(父について知りたくて、こうして近づいてきた?)と思うようになった。
「なんでそんなことを知りたいんだよ」
「え? だめ?」
「他に聞くことがあるんじゃないか?」
有希は驚いている。
「他にって?」
「もういいよ」
有希の目的は父であって、自分への好意じゃない。
自分に本気で興味がないのだと知った一翔は落ち込む。
そんな一翔に気付かず、有希は話し続けた。
「ねえ。君は、図書室の幽霊の噂を信じた口?」
「信じるわけないだろ。ただ、面白そうだったから来てみただけだよ」
「でも、図書室の幽霊をみるために毎日来ていたよね。相当、会いたかったんじゃないの?」
一翔が幽霊に会うために図書室へ通っていると公言していたことを、有希は知っていた。
「やっぱり全部見ていたんじゃないか! あー!」
一翔は、恥ずかしさに頭を抱えた。
(変な言動をとっていなかったか?)
必死に記憶を探る。
(……多分、ない、はず……)
覚えている限りだが。
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