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この町では、外を歩いていてもほとんど人と会わない。
あまりに寂しい所だと、都会育ちの一翔は思っていた。
だから、幽霊でもいれば賑やかで楽しくなるかもと思いながら暗い廊下を歩いた。
締め切った窓。湿った空気。カビの匂い。蜘蛛の巣には蜘蛛がいる。
歩けば、ギシギシと軋む廊下。
廊下全体にうっすらと埃が積もり、ところどころ穴があいていたりする。
「これは、幽霊が出そうな雰囲気だな」
幽霊なんて馬鹿馬鹿しい噂だと一笑に付していたが、(もしかして、いるのかも)と、かすかに恐れのような感情が湧き出てきたところで図書室に到着した。
図書室には明かりがついている。それを見て、少し安心した。
(誰かいるのかな)
誰もいなければ、電気を消す。
エコという名の節約を心掛けることは、教職員と生徒に共通する認識事項だ。
つまり、中に誰かいるということになる。
引き戸を動かすが、立て付けが悪くてスムーズに開かない。
両手を使って力を入れるが、10センチほどで止まってしまった。
「あれ? あれ?」
一翔がドタバタしていると、人影が動いて中から開けるのを手伝ってくれた。
「今、開けるから」
間髪いれず、細くてきれいな指が隙間からスッと出てきて戸板の中央を掴む。
すると、拍子抜けするほどスルッと開いて、中の人と目が合った。
(ハッ……)
可愛らしい美少女。
一翔は、息を飲み言葉を失いきれいな顔を何度ものぞき見た。
挙動不審な態度に、少女が怪訝な顔になる。
「ん? どうかして?」
「あ、いや、その……、ありがとう……」
なんとか気を取り直してモゴモゴと口を動かしてお礼を言った。
(今のじゃ、通じなかったかも)
恐る恐る顔を見ると、少女がニコッと微笑んだので天にも昇る心地となった。
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