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有希が幽霊だったかもしれないと一瞬でも考えた自分が馬鹿みたいに思える。
「幽霊の噂も、君が原因じゃないのか? 君の立てた物音で幽霊が出たと考えられているとか」
「噂自体は昔からあるんだから違うわよ。家鳴りが激しいだけ。それが噂につながっていくんでしょうね。幽霊を見たいと願っていれば、家鳴りを幽霊が立てた音だと思い込んでしまうんでしょう」
「君が立てても、家鳴りだと主張すればいいね」
一翔の反論に、有希はムッとする。
その顔もかわいい。
「幽霊じゃなくて悪かったわね」
「どういう意味?」
「だって、幽霊に会いたかったわけでしょ。願いを叶えて欲しかった? だったらごめん。私にその力はない」
それは口実で、有希に会いたくて通っていたわけだが、不届きものと同じと思われたくなくて、『そうじゃない。本当は君に会いたかったからだ』などとは、口が裂けても言えない。
全校集会にいなかった理由まで聞いてしまうと、完全に目的がばれる。聞きたいが我慢した。
「幽霊にもないだろうよ。幽霊に3回願うと叶うって話は、どうして出たんだ?」
「クリマンの説明が足りないのよ。元々は、幽霊に呪われないように、出会ったら忌み言葉を3回唱えるってことだったの。それが願い事にすり変わったわけ」
「口裂け女にポマードって言うようなもんか。本当はなんて言えばいいんだ?」
「忌み言葉は伝わっていない」
「願い事と忌み言葉では、全然違うよな」
「願い事を言い出した人って、他人の願い事を聞きたかったじゃないかな。これ、私の推測だけど。図書室で願い事を言う人たちを見て、そう思った。どうせ幽霊なんていないんだから、そっちのほうが面白いってね」
「人の願い事を聞いていたの?」
「だって、口にするんだもん。一人で来る人はほとんどいなくて、大抵は集団で来て叫ぶから、秘密じゃないんでしょ」
半ば、強引な自説。
「ねえねえ。幽霊に会ったら、何を願うつもりだった?」
「だから、そんなこと考えていなかったよ。あったとしても教えない」
一翔には、いつも願っていることがある。
もしも幽霊に会ったら、それを口にしていたかもしれない。
口にしないで良かったと、心の中で安堵する。
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