少女と糖尿病

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「なーんだ。教えてくれないんだ」  有希はふくれっ面をしたが、目は笑っていて本気で怒っているわけではない。  オレンジ色の強烈な光が一翔の目に入ったので、思わず目を閉じて腕で顔を隠した。 (まぶしい!)  図書室に射し込んだ西日が、丁度、一翔だけをすっぽりと包むように照らしてくる。  無理やり目をこじ開けると、黒いぼんやりした人影が目の前に立っている。 (ああ、これが『図書室の幽霊』か。父の言った通り、残像だ)  残像だと最初からわかっているから、怖れもしないし、願ったりもしない。   「今、幽霊らしき人影が見えたよ。でも幽霊じゃないね。残像だよ。目に西日が入ったからだ。視界もぼやけている」  有希に話しかけたつもりだったが、視界がクリアに戻ると、姿がないことに気付いた。 「あれ? どこに行った?」  鮮やかな消え方に、一翔は驚き、鳥肌が立つ。 「からかうなよ。また、隠れているんだろ?」  また、本棚の裏に隠れているのだろうとあたりを探していると、誰かが廊下を歩いてくる音がした。  ガタガタと扉が少しだけ開き、栗林先生の顔が隙間からのぞく。 「もう閉めるから、帰りなさい」 「栗林先生……」 「なんかあった?」  狐につままれた顔で突っ立っている一翔に、栗林先生は不思議そうな顔になる。  有希を見なかったか聞こうかと思ったが、彼女の意思に反する気がしてやめた。  
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