おやきと図書室

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 有希が警戒を解いたのは、自分への好意のためと考えていいのかどうかはまだわからない。  元来、有希は気さくな性格のように思える。  それを変えてしまったのは、周囲の無知と無理解のせいだ。  一翔は、カバンからおやきを取り出して机に置いた。 「僕もおやきを作ってみたんだ」 「へえー、君が?」 「食べてみてよ」 「うーん」  有希は、ためらいながらも一つを手に取った。  いきなり食べず、中身を確認しようと半分に割る。 「え?」  有希は、中身を見て驚いた。  細く刻んだゴボウとニンジンに、白ゴマと唐辛子がまぶされている。 「これって、キンピラ?」 「そう。何を入れてもいいみたいだから、違う味を試してみたくてさ。キンピラなら問題ないだろ?」 「キンピラも君が作ったの?」 「いやあ、それは難しそうだったから、買ったやつ」 「じゃ、食べてみる」 「おいおい」  意地悪を言いつつも、有希は嬉しそうに食べた。  それを不安な面持ちで一翔が見守る。 「うう……」  有希が唸りだした。 「ど、どうした?」  不味かったのか、もしくは、体調が悪くなってしまったのかと一翔は焦った。  有希は、苦悶の表情で目を閉じ、体をよじり、ガクンと前屈みになる。 (これは、最悪の状況かもしれない! そうだとしたら、インスリン注射が必要だ!)  本人が意識を失えば、一番近くにいる一翔が注射をしなければならない。 (カバンには注射器が入っているはず! それを取り出さなきゃ!)  一翔は、有希のカバンに手を伸ばした。
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