おやきと図書室

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 有希が目を開けて起き上がった。慌てて手を引っ込める。 「おいしいじゃない!」  元気に声を上げたのでまた驚いた。 「なーんだ。脅かすなよ。からかったな!」 「驚いた? ごめん」  一翔の反応を見てケタケタ笑っている。  脅かそうと、有希はわざと声を上げただけだった。 「注射してくれようと思ったの?」 「う、うん。医者じゃない人間は他人に注射しちゃいけないんだろうけど、反射的に体が動いちゃった」  自分が注射していいのかどうかなど考える暇もなく、体が勝手に動いた。  これは、夜でも朝でも突然やってくる患者に診察する父が見せてきた姿勢だ。  人の命がかかっていれば、自分のことを後回しにする。なによりも人命優先。  それが正しい人の姿と学んできたから、処分があったとしても、自分の選択を後悔しない心づもりはできている。 「キンピラもいけるなんて知らなったから、ショックを受けたの。低血糖症状になったんじゃないから。注射なら、もう済ませてあるし」  一翔は、それを聞いてホッとした。 「でも、もし私が低血糖で意識混濁に陥ったら、注射してくれる?」  有希の言葉に一翔はドキリとした。 「でも、どこにどうやって注射したらいいのか……」 「何にも知らないでやろうとしたの?」 「う、うん……。無謀だったな」 「じゃあ、いざという時のために、教えておくね」  有希はスカートをたくし上げた。  白い右太ももが一翔の目に飛び込んでくる。
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