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有希は、内容より先に、土下座する一翔に感心した。
(この人、凄い……)
罪を認めることには恐怖を伴う。償うには、その恐怖を乗り越えなければならない。己の過ちを直視し、こうして直接謝罪できる一翔は、強い人間ということになる。
(もっと、知りたいかも……)
初めて、有希は一翔自身に興味がわいた。
桐谷先生の息子だから友人として付き合ってきたが、そんなことはどこかへ飛んで行った。
頭を下げ続ける一翔の肩に優しく手を置く。
「もう、いいよ。終わったことは、今さらどうにもならないんだから」
「許してくれるのか?」
「しょうがないよね。反省して、二度とやらないというのなら、許すしかないでしょ」
有希の言葉に一翔は涙が止まらない。
「この話は終わりにしよう。頭を上げてよ。おやきを食べるんでしょう」
「……ありがとう」
一翔は、涙を袖で拭いて立ち上がった。
これからも有希と一緒にいられることに感謝しながら、一翔はおやきを食べた。
「まあまあだな」
「そんなことないよ。美味しかった」
「次は何がいい?」
「そうねえ……。今まで食べたことのないものを食べてみたいかも」
「オリジナル餡? 例えば?」
「うーん……。何だろう……」
見上げて考える有希を、一翔が見守る。
有希が変わり種おやきを気に入って、アイデアまで出すほど面白がってくれていることが一翔には嬉しい。
連日粉まみれになって、作ってきたかいがあったというものだ。
有希に出す前にかなり失敗していた。
父にも『粉屋になるのか』と呆れられていた。
「こんなのどう?」
思いついた有希が一翔に提案する。
「豚しゃぶサラダ! ポン酢味で!」
「さっぱりしていていいね」
「おやきは、野沢菜の漬物を入れたのが始まりだから、酸味あるものが合うのよ」
「じゃあ、僕は対極を考えるとしよう。鯖の塩焼き」
「長野県は海がないから、鯖なら水煮缶がよく使われるんだ」
「鯖は水煮缶にします。あとは、……ポテトサラダなんてどう?」
「ボリュームが出そうね。では、私からはコールスローサラダを提案します」
二人でアイデアを出し合い、笑いあった。
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