おやきと僕の部屋

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 今日の有希は、いつもの制服と違ってタータンチェックのブラウスとデニムのミニスカートを着ている。  それらが激しく濡れていて、そのままでは体温を持っていかれるだろう。  中に入ると、一翔は、診察時に着るピンクのガウンを持ってきて着替えるように勧めた。 「濡れた服のままじゃ、風邪をひいてしまう。これに着替えてはどうだろう?」 「診察でもないのに、使っていいの?」 「まとめてクリーニングに出すし、気にしなくていいよ」 「じゃあ、借りるね」  有希は、診察室にある白い衝立の後ろへ回ると、濡れた服を脱いでガウンを羽織った。  一翔は、一連の動作を無意識に目で追っている自分に気付いて目をそらした。  着替えた有希が出てきた。  有希は、何を着てもよく似合う。 「よく似合っているよ」 「診療衣が似合っても、ちっとも嬉しくないけど」  診療衣は、生地が柔らかくて体のラインが出てしまう。  有希は、少し恥ずかしそうに胸元を両手で隠した。 「ハンガー、貸りていい?」 「そこにあるのを使っていい」  衝立にハンガーが掛かっている。  有希は、それに脱いだ服を掛けた。 「乾くまで、ここに干しておくね」  濡れた有希の服。  デニムは乾くまで時間が掛かりそうだ。  着替えると、有希は先ほどまで冷えていた体が少し楽になった。 「助かった。ありがとう」 「着替えてよかっただろう」 「まあね」 「ここにいつまでもいると父に叱られるんだ」  二人で台所に行った。
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