おやきと僕の部屋

7/15

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
「ねえ、前から思っていたんだけど……。一翔君と桐谷先生って、あまり似ていないよね」 「そう?」 「うん。桐谷先生って彫が深くて目が大きいけど、一翔君は、切れ長で……」 「のっぺりしているって言いたいんだろ?」 「自分で言った」 「よく言われてきたからさ」  半分むくれて横を向く一翔に、有希は、「気にしていたんだ」と笑いかけた。  笑われてますますむくれる。 「私は、一翔君の顔の方がどちらかというと好きだな」 「え……。本当?」  一翔は、ほんわか、いい気分になる。 「ああ、今のは、気にしないで。口が滑った」  有希は、アハハと笑い消した。  一翔は、今の一言ですっかり機嫌を直した。  有希との時間が楽しく過ぎていく。 「じゃあ、お母さん似? 写真あるの?」 「そこにある」  仏壇に遺影が飾られている。  有希は、手を合わせると、遺影をよく見た。 「知的なお母さんね」 「母も医者だったんだ」 「そうなんだ。両親ともに医者なんて、完璧なサラブレットね」 「………………」  一翔が黙ってしまったことを心配した。 「あ、馬に例えたのが悪かった? ごめん。さっきから悪いことばっかり言っているね」 「いや、そこは気にしていない」 「将来、医者になる気はないの?」 「うん」  やはり、栗林先生との会話を聞いていたようだ。  だが、そのことについて不思議と腹は立たなかった。  有希には自分のことを何でも知っていて欲しい。  そんな気持ちになる。 「両親の仕事を見ていて、憧れない?」 「素晴らしい仕事だとは思うけど、僕には無理だから」 「何もしていないのに、どうして無理だと決めつけるのよ」 「どうしてって……」 「両親とも医者なら、なれる確率はとても高いんじゃない?」  一翔は、あのことを告げるべきか悩んだが、有希を信じて打ち明けた。 「僕は、両親の実の子じゃないんだ」
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加