おやきと僕の部屋

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「落ち着け。慌てず騒がず、よく考えろ」  自分に言い聞かせる。  ここでは、救急車を呼んでも時間が掛かり、間に合わない危険が大きい。 「診察室にインスリンがある。それを注射すればいい」  勝手な持ち出しはいけないことだとわかっている。  だが、有希を救うためには実行するまで。人命優先。 「よし!」  覚悟を決めた一翔の表情が引き締まる。 「まずは、冷たい床に寝転がる彼女をこのままにしておけない。どこかに寝かさないと」  有希の体を両手で持ち上げると、一番近い自分の部屋に運んでベッドに寝かせた。  鍵を持って診療室に行き、インスリンを探す。 「確か、冷蔵庫に置いてあるはず。……あった!」  冷蔵庫に保管されているインスリン製剤を見つけた。  器具庫から注射器を取り出すと、それらを握りしめて有希の元に戻る。  有希は、意識を取り戻すことなく同じ体勢で寝ている。  鼻から漏れでる力のない息が、一刻も争う事態だと教えている。  一翔は、あれからインスリン注射について勉強して予備知識を身に着けていた。  マニュアル通りによく振り、注射器にインスリン製剤を入れると少し出して中の空気を抜く。 「えっと……、太ももでいいのかな」  診療衣の前身衣をそろそろとめくると、白い太ももが徐々にあらわとなる。  ところどころに注射の痕があった。 「何度も同じ場所に針を刺すと皮膚が硬化してしまうから、少しずつ位置をずらしていくんだったな」  指で軽く押しながら、柔らかい箇所を探っていく。  有希の内ももは、どこも柔らかくて皮膚に弾力と張りがある。  ここだけ見ると、病人に思えない。
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