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有希にはまだ意識があるが、どんどん弱っていくように見える。
(ためらう時間はない! 急がなきゃ!)
注射できそうな箇所を見つけた。
このあたりにしようと、空いている左手で皮膚を軽くつまんで盛り上げる。
この山に針を立てればいいのだが、初めて注射する一翔は、焦りと緊張で手汗が出てきて、滑って手元が狂いそうになる。
「ク……、落ち着け!」
気持ちを抑えるため、一旦、手を離してズボンで拭いた。
呼吸を整えて落ち着きを取り戻す。
再度、挑戦。
「肌に対して、直角に……刺す!」
つまんだ内ももの頂点に注射器の針を立てた。
注入ボタンをゆっくりと親指で押し込むと、薬液が有希の体内に吸い込まれていくのが見える。
最後まで注入したことを確認して針を抜く。
「これで大丈夫なはず……だよな……」
一仕事終えた気分で自分の額に浮いた汗を腕で拭うと、目を覚ますまで見守ることにした。
有希の顔に少しずつ血色が戻ってくる。
ゆっくり目を開けて一翔を見た。
「気が付いた! よかった……」
安堵のため息をつく。
一つの困難を乗り越えやり遂げた満足感で心が満たされる。
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