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◇
食卓には、パックから皿に移しただけの冷ややっこ、焼き魚、一翔が作った味噌汁に、出来合いの総菜が並んでいる。
それらを食べながら、「学校でこんな話を聞いたよ」と、一翔は図書館の幽霊について父に話した。
こちらに越してきて、一翔と父の顔を合わせる時間は父の希望通り格段に増えた。
それが目的で出世も高給も捨てて田舎に来たのだから当然なのだが、今まで差し向いで食事をすることが滅多になかった二人に共通の話題はなく、いつも黙って食べるだけで気まずい雰囲気に陥りがちだった。
一翔も父も話好きではなく、何を話せばいいのかわからなくて話題にいつも困っていた。
そんな空気を一変するように、一翔が学校の話を持ち出したので父は大いに喜んだ。
「ほう。図書室の幽霊か」
くだらない話だと叱られることもなく、真剣に取り合ってくれる。
父はいつもまじめだ。
「オレンジ色の光の中に浮かび上がる幽霊なら、きっと残像だな。西日のような、強烈な光の刺激を受けた視神経に直前の画像が残る。おそらく、近くにいた人の姿が残ったのだろう。それが幽霊に見えたんだ」
「あー、残像か。だから、西日の中にしか出ないんだ。それを幽霊だと思っているんだね」
あっさりと、幽霊の正体を暴いた父をさすがだと感心した。
「幽霊を見たと思っているだけのこと。実際には、幽霊なんてこの世にいないからな」
「幽霊の正体がわかってスッキリした」
「一翔、まさか、少しでも信じていたのか?」
「いや。絶対にウソだと思っていたよ。でも、先生まで本気で言うから、どういうことかと思っただけ。どう聞いても、荒唐無稽な話なのに」
栗林先生が否定しなかったのが、一翔には意外だった。
「しかも、幽霊が願い事を叶えてくれるんだって。ありえないだろう。コンクールで優勝した子も、そんなに簡単に信じてしまうものなのかな」
「その子は、幽霊に願ったのだから自分は絶対に優勝すると自分を信じたことで練習に身が入り、本番でも緊張しないで実力を発揮できたのだろう。プラシーボ効果と同じだ」
「なるほど。そういうことか」
幽霊の謎は解決した。
(これで、あの子のことに集中できる)
明日から学校中を探そうと決意した。
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