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「それより学校にはなじめたか? 友達は?」
「ああ、うまくいっている。みんな親切だし、友達もできた」
一翔は、父を心配させて診療に影響が出てはいけないと、とっさにウソをついた。
「今度、紹介しなさい」
「機会があったら」
友達は、いない。
だけど、栗林先生は面白いし図書室で出会った少女もいる。
まだ、希望はある。
次の日から、一翔はさりげなくあの子を探した。
登下校中、昼休み。
ところが、なぜかどこにもいない。
全校生徒数100人足らずなのに、あの顔が見つからない。
最初はまだ余裕があった。
(校内に絶対いるはず。簡単に見つかるだろう)
それは疑いようのない真実。……の、はずだった。
当然、図書室には毎日通った。
勉強ではなく、幽霊を確かめるという名目で。
あの日、あの子が座っていた席をわざと陣取る。このことによって、あの子がくればきっと気が付いてくれるだろう。
そんな淡い期待を抱きながら本に目を落とすが、内容なんて一文字だって頭に入ってこない。
――ガタ……。
「ビクッ」
音がするたび、飛び上がるように驚く。
あの子が来たかとドキドキしながらゆっくり入り口に目を向けるが、大抵誰もいない。
「なんだ……、家鳴りか……」
ちょっとした物音にも敏感に反応しては、まるで挙動不審者である。
この校舎は、古いせいでいたるところから音がする。
教室では人も多いので気にならないが、図書室内は静かで一人だからかよく響く。
「カキーン!」これは、金属バットで球を打つ音。
遠くで、野球部の騒々しい練習音が聞こえる。
「声出せ!」という怒鳴り声はしょっちゅう。上級生は、常に下級生を怒鳴っている。
それに応じて、「オオオ!」や「アヤッシャア! アヤッシャア!」など、意味の聞き取れない雄たけびが聞こえてくる。
明るい校庭。薄暗い図書室。
静寂と喧騒。
図書室と校庭は、まるで別世界だ。
「キャハハハ!」「ちょっと、待ってよー!」
これは、近い。
女子集団が窓の外を大騒ぎしながら走っていくのが見えた。
一翔は、立ち上がると窓際の本棚に近づき、本を探す素振りで窓の外を見た。
大股開きで走っていく女子たちの中に、あの子はいない。
そのまま、席に戻る。
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