図書室はオレンジ色の光に溢れ

7/9
前へ
/120ページ
次へ
 栗林先生が入ってきた。 「あら、今日も図書室で勉強して、感心ね」  顔を見せるのは、いつだって栗林先生だけ。 「勉強じゃありません。幽霊を待っているんです」 「へえ。で、幽霊に会ったら、何を願うの? やっぱり、御父上のような立派な医者になれますようにって?」 「それはないです」 「医者にならないの?」 「はい」 「ああ、思春期にありがちな親への反発ね。もう少し成長するとわかるだろうけど、結局、子供は親と同じ道を進むものなのよ。私の友人にもいたわ。両親が医者で、反発して医学と関係ない大学に行ったけどすぐ退学。翌年には、医学部に入りなおして医者になった人がいるの。なんであんなに反発していたのかと、今では笑い話よ」  栗林先生は、訳知り顔で思い出を語った。  一翔は、父のように『ならない』というよりは、自分は『なれない』と思っている。  それに、その例は誰にでも当てはまらないだろう。  すべてを思春期でくくるのはやめてほしいとも思う。 「あの……、先生、それより……。ここって誰も使わないんですね。毎日来ているけど、ほかの生徒に会いません」  話好きの栗林先生なら、何か教えてくれるんじゃないかと期待して相談した。 「ああ、そうね。みんな忙しいからね」  期待外れの答え。 (あの子はここに通いなれているようだったけど、先生も知らないのか?)  図書室によく顔を出す栗林先生が、知らないなんて考えられない。 「先生、実は、ある人にお世話になってお礼を言いたいんですが、それっきり会えていないんです。名前を聞きそこないまして。校内で探しているんですが、見つからないんです」 「あら、そうなの? じゃあ、全校集会で探してみたら?」 「全校集会があるんですね」  全校集会は、生徒全員が参加する。  先生が言うように、そこでなら必ず見つかるだろう。  図書室で出会ってから、すでに一週間は経っている。  探し続けた一翔に、ようやく希望の光が射してきた。  一翔は、全校集会の日を心待ちにした。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加