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「ところで、真守様。先日の、弓場殿でのひと幕、御覧になられましたか?」
「あっ、見ました! 光成様が大変お美しく、凛々しく、目が潰れそうでした。実際に潰れたら、お姿を目に焼きつけられないから、踏ん張って瞬きもせずに見開き続けてましたけどっ」
「わかりますー。私も内侍司のお仲間たちと物陰からこっそりと覗き見てましたが。光成お兄様は誰よりも麗しくて、くらくらしました」
気持ちを切り替えるために、話題も変えてみた。
先日、内裏の弓場殿で行われていた、蔵人所と滝口との弓引き対決を引き合いに出す。もちろん、弓の名手である光成お兄様について熱く語るためだ。
「弓の命中率も一番でしたよね。さすが、伝説の弓作りが自ら弓を製作したがるというほどの腕前と、見物していた皆が溜め息をついておりました。ですが、俺がそのことに触れると、光成様は決まって『私程度の弓引きは、いくらでもいる。主上のため、さらに精進せねば』と真顔でおっしゃるのです。もう充分に名人の域に達しておられるのに、俺、あまりの神々しさに心臓が止まりかけました」
「きゃー、わかりますー! お兄様って、あの美貌をひけらかすどころか、女顔だと気にしてるところも、とてもお可愛らしいでしょう? 強く賢く美しいという美点だらけなのに、ご自分に対する評価は低くて、とことん無自覚だなんて。そんな方、好きにならないわけないもの。真守様のお気持ち、とてもよくわかりますわっ」
「ほんとですかっ? やっぱり近江様は、わかってくださるんですね。そうなんですっ。宮中でも、あちらこちらで光成様のお噂を耳にするのですが。曲がったことがお嫌いなお方だから、ついつい出てしまう厳しいお言葉のせいでその相手に嫌われていると、ご本人は思い込んでらっしゃる。実際は、その逆なのに」
「ああぁ、それもよくわかりますー! お兄様に叱られるその人に、私がなりたいっ」
「びゃくえんさまも、いってた。みつなりのおやじさま、とても、いけてる。すてきだ、って」
「あ……えぇ、そうね。白焔様は、“そっち”ですものね。うずら丸も、私たちと一緒に頑張りましょう?」
「がんばる。うずらまる、がんばる。おんなのこの、いじ。みせる」
萩の花が咲き揃う庭で、私たちの恋の華も鮮やかに咲き揃う。
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