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「あつこ? すきなやつに、ふみ、かいたか?」
「えっ?」
――どくんっ!
呪いの文のことを考えていたら、不意打ちで別の文の話題になってしまった。鼓動が、せわしなく跳ねる。
「えー、それは、その……色々あってね? まだ、かしら?」
「なぜ、まだ、なのだ? きのう、うずらまると、やくそくしたのに」
うん、そうよね。約束した。だから、書いていないとは言いにくくて、さりげなく目線を外して答えたのに。
朝顔の蔓と葉の隙間から、ちょんと顔を覗かせ、こちらを見上げてくる緋色の瞳がとても澄んでいて綺麗だから、正直に言うしかない。
強い陽射しに負けぬよう色濃く大きく育っていく蔓と葉、そして色とりどりの朝顔の花弁に美しく映えている真白き体毛の子猫の前にしゃがみ、本心を吐露する。
「うずら丸。私ね、怖いの。だって光成お兄様、私が贈った青梅の糟漬け、もしかしたら迷惑だったかもしれないのだもの。
お兄様のお口に合うようにと一生懸命に作ったのに、『とても美味しかった』とお返事の文をくださったのは、蔵人所のご同僚であられる源建様なのよ?」
「みなもと?」
「えぇ。私の作った物など食べたくないから、源蔵人様に丸ごと差し上げてしまわれたのかもしれない。そう思うと……」
あら、嫌だ。私ったら、説明しているだけなのに、胸が痛い。
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