弍 ひみつの花園

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 自分が放った自虐の言葉で傷ついてしまったみたい。気が強いって自称してるくせに、駄目ね。 「あつこ、ないているのか? あつこを、なかせるやつ、うずらまるが、ころしてやるぞ?」 「あっ、だ、大丈夫! 泣いてないし、光成お兄様は悪くないの。次は、もっと美味しく作らなくてはと思っただけよ? せっかく、うずら丸が、好きな相手には美味しい物を贈ればいいって提案してくれたんですもの」  慌てて両手を振って、否定。笑顔を作る。  実際、まだ涙は出ていないし。大切な光成お兄様を、お友だちに傷つけさせるわけにはいかない。 うずら丸は純真だから、私が気をつけなければ。 「そうだ。うまいものを、けんじょうすると、よろこんでもらえる。びゃくえんさま、いつもよろこんでくれて、うずらまるを、なでてくれる。あれ、うれしい」  とても嬉しそうに、子猫が目を細めた。  『びゃくえんさま』は、うずら丸がずっと恋している相手。妖猫の頭領らしい。  知った時は、かなり驚いたのだけれど、うずら丸は女の子。  お互い、片恋の相手が居ることで、私たちはより仲良くなれた。むしろ、うずら丸だけが私の理解者だ。  美しさと有能な仕事ぶりで、ご本人がかなりな毒舌家の厳しいお方だと承知して尚、あちらこちらに隠れ信奉者(しかも男女問わず)が存在する光成お兄様への切ない恋心を相談することができるのは、うずら丸だけ。 「あつこ。では、うめのあじを、たずねるふみ、にするといい」 「あっ、そうね。それなら、お兄様宛てに文が書けるわ。素敵な助言をありがとう。うずら丸っ」  こんなに気が合う子、他にいない。
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