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――ぱしっ、ぱしんっ!
「あっ」
――かたんっ、かたかたっ
「扇が……」
苛立ち紛れの勢いが強すぎて、扇が手からすっぽ抜けた。夏用に軽く作られた扇は一直線に御簾まで飛び、ぶつかって床に落ちる。
その向こうに見えるのは、陰陽生が置いていった、桃の入った竹籠。
「……桃には罪はないから、貰っておいてあげるわ」
わざと足音を大きく立てて歩き、御簾を上げて簀子縁へと出る。桃の籠の横に、ぺたんっと座った。
桃をひとつ、手に取る。
「……はぁぁ……」
長く深い溜め息も、ひとつ。
「わかってる」
手の中で桃を転がしながら、呟きも、ひとつ。
わかってる。私、本当はわかってるの。ただ、素直に認めることができないだけ。
この桃を持ってきた、あの陰陽生。あの者は、悪くない。陰陽寮に属する者として、当然のことをしただけ。
私にとっては大事なお友だちでも、うずら丸は妖猫。畏れ多くも主上のおわす内裏に妖を住まわせるなど、本来あってはならないことだ。
私には、上の女房としての自覚が足りなかった。
うずら丸の正体は妖なのだから、退治されても文句など言えない。
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