肆 恋華の、等しく咲き揃う

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――ぱしっ、ぱしんっ! 「あっ」 ――かたんっ、かたかたっ 「扇が……」  苛立ち紛れの勢いが強すぎて、扇が手からすっぽ抜けた。夏用に軽く作られた扇は一直線に御簾まで飛び、ぶつかって床に落ちる。  その向こうに見えるのは、陰陽生が置いていった、桃の入った竹籠。 「……桃には罪はないから、貰っておいてあげるわ」  わざと足音を大きく立てて歩き、御簾を上げて簀子縁へと出る。桃の籠の横に、ぺたんっと座った。  桃をひとつ、手に取る。 「……はぁぁ……」  長く深い溜め息も、ひとつ。 「わかってる」  手の中で桃を転がしながら、呟きも、ひとつ。  わかってる。私、本当はわかってるの。ただ、素直に認めることができないだけ。  この桃を持ってきた、あの陰陽生(おんみょうせい)。あの者は、悪くない。陰陽寮に属する者として、当然のことをしただけ。  私にとっては大事なお友だちでも、うずら丸は妖猫。畏れ多くも主上(おかみ)のおわす内裏に(あやかし)を住まわせるなど、本来あってはならないことだ。  私には、(かみ)の女房としての自覚が足りなかった。  うずら丸の正体は妖なのだから、退治されても文句など言えない。
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