肆 恋華の、等しく咲き揃う

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* 「――あつこ、あつこ!」 「なぁに? うずら丸」 「これ、まずい。とても、まずい。まもり、へたくそだ。へたくそ!」 「あら、そんなに?」 「こんなの、しにそうに、はらへってても、だれも、くわないぞ」 「なんだとっ? 俺が、昨日一日かけて仕込んできた梅の(かす)漬けに、なんてこと言うんだ」 「うずらまる、ほんとうのことしか、いわない。あつこ、これ、くったら、しぬかもしれない。それくらい、くそまずい」 「まぁ! 私、真守様のお顔を立てて、ひとつだけいただこうと思っておりましたのに、どういたしましょう」 「もう、いいです。見た目で出来上がりが酷いのは、わかってました。近江(おうみ)様が俺の手作りで腹でも壊したら、うずら丸に俺が殺されます。もう……いいです」 「まもり、きにするな。うずらまるが、くってやる。くそまずいけど、がまんするぞ」 「だから、もういいって言ってるだろう! 傷口に塩を擦り込むなよ!」 「うふふっ。うずら丸と真守様は、本当に仲良しになりましたねぇ」  萩の花が咲き揃う庭に、三種類の明るい声が響いている。  ここは、傷を癒やして大陸から戻ってきたうずら丸が預けられている、お邸。  陰陽寮の詰所と聞かされていたけれど、それは半分だけ当たっていて。実際は、陰陽師たちの修行のために邸の一部を開放されておられる、賀茂(かも)家の私邸。つまり、真守様のお家だ。
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