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「――あつこ、あつこ!」
「なぁに? うずら丸」
「これ、まずい。とても、まずい。まもり、へたくそだ。へたくそ!」
「あら、そんなに?」
「こんなの、しにそうに、はらへってても、だれも、くわないぞ」
「なんだとっ? 俺が、昨日一日かけて仕込んできた梅の糟漬けに、なんてこと言うんだ」
「うずらまる、ほんとうのことしか、いわない。あつこ、これ、くったら、しぬかもしれない。それくらい、くそまずい」
「まぁ! 私、真守様のお顔を立てて、ひとつだけいただこうと思っておりましたのに、どういたしましょう」
「もう、いいです。見た目で出来上がりが酷いのは、わかってました。近江様が俺の手作りで腹でも壊したら、うずら丸に俺が殺されます。もう……いいです」
「まもり、きにするな。うずらまるが、くってやる。くそまずいけど、がまんするぞ」
「だから、もういいって言ってるだろう! 傷口に塩を擦り込むなよ!」
「うふふっ。うずら丸と真守様は、本当に仲良しになりましたねぇ」
萩の花が咲き揃う庭に、三種類の明るい声が響いている。
ここは、傷を癒やして大陸から戻ってきたうずら丸が預けられている、お邸。
陰陽寮の詰所と聞かされていたけれど、それは半分だけ当たっていて。実際は、陰陽師たちの修行のために邸の一部を開放されておられる、賀茂家の私邸。つまり、真守様のお家だ。
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