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楽しいやり取りは、続いている。
無言で糟漬けを摘まみ続ける私の目の前で。
真守様が手作りされた梅の糟漬けがあまり美味しくない理由は、青梅じゃないからだ。もう、とっくに旬を過ぎている。
きっと、うずら丸から私の好物だと聞いたのね。それで……。
青梅の糟漬けは、光成お兄様と私、それに、お兄様の実妹である撫子の君。この三人の思い出の味。ともに仲良く遊んだ幼い頃、夏の午後に一緒にいただいた食べ物なの。
だから、うずら丸から『好きな相手に美味しい物を贈るといい』と助言を受けた私は、光成お兄様への贈り物にこれを選んだ。
本家の若君と傍流の娘という、血筋の格差など知らなかった幼き頃の気安い間柄を、あの方に思い出してもらいたくて。
つんつんした態度しか取れないけれど、私のお兄様への想いは、当時と少しも変わっていないのだと示したくて。
「……無駄だったけど」
「はい? 近江様、何か言いましたか?」
「いいえ、何も」
自嘲を込めた言葉は、またひとつ、糟漬けを口に放り込みながら呟いたから、真守様やうずら丸の耳には届かない。それでいい。
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