23人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
大納言家の傍流の血筋の自分とでは、とても釣り合わないと諦めつつも、幼き頃よりお慕い申し上げてきた。
「でも、お兄様は私を嫌っておられるから、ともに美しい光景を眺めることすら、叶わない願いなのでしょうね」
私が帝に仕える上の女房となったのは、蔵人である光成お兄様のお姿を、時折でも内裏で垣間見ることができるのではと期待したから、だなんて。言っても、きっと信じてはもらえない。
だって私は、お兄様と顔を合わせると、いつもきつい態度を取ってしまうのだもの。
「好きすぎて悪口を言ってしまう私のことなんて、お兄様はきっと、お嫌いで……」
――どすんっ!
「えっ?」
帝のおわす大内裏。内侍司の庭で薄明の空をひとり見上げ、虚しい独り言の最中。その空から、大きな物体が落ちてきた。
「何、かしら。とても大きくて、“ 白くて紅い何か ”だったような……」
それが落ちたのは、目の前の茂み。つい先ほどまで、自分が水やりをしていた、朝顔や他の草花が密集している場所へと、そろりと近づいてみる。
確認しなくては。
“白くて紅い”なんて、おかしな言いようだけれど、本当にそう見えたのだから、それを確認しなくては。
「ぎぃっ、ぎぎっ」
「まぁ! これは……!」
そこには、深紅の瞳を妖しく煌めかせる大きな白猫がいた。そして、その真白き体毛は、緋色の炎に縁取られ、ちりちりと逆立っている。
――今、まさに逢魔が時。
「ぎっ、ぎぎぃっ」
耳障りな唸りを聞かせている“それ”は、どこからどう見ても、妖だった。
最初のコメントを投稿しよう!