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「ありがとう、は……かいえん、の……きもち、だ。かいえんは、おまえ、に、ありがとう、いうぞ」
「かいえん?」
『かいえん』が、この妖猫の名前なのかしら。
そう思い、何気なくその言葉を復唱したその瞬間。相手の様相が変わっていく。
実際に見たことはないけれど、獅子というのはこれほどに巨大なのかしらと、妖猫の体格の基準にしていた大きな輪郭が、突如、ぐにゃりと崩れた。
――しゅうぅぅ
どろりと重く、妖しい気配が徐々に霧散。見る見るうちに身体が小さくなり。
「ぴよーんっ」
一瞬のちには、真っ白い毛並みと緋色の瞳を持つ、小さな獣の姿が、そこに現れていた。
「ぴよんっ、ぴよーんっ」
甲高い鳴き声の珍妙さが脱力を誘う、とても愛らしい子猫の姿。
思わず、両の拳をぐっと握り込んで叫んでしまった。
「かっ、可愛い……!」
――これが、私と灰炎との出会いだった。
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