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参 別離
「篤子、待て!」
「待ちません。ついてこないで!」
あぁ、どうして、こんなことになっているんだろう。
「関係ない光成お兄様なんて、ついてこないで!」
――朔の夜。突然、内侍司に姿を現された光成お兄様と源建様。そのおふたりから逃げるために、駆け出した。
腕の中に抱えた布包み――――うずら丸をしっかりと抱きしめて。
陽が落ち、月の昇らぬ朔夜が始まった途端、内侍司を束ねておられる柿本様が、私の局を検分に来られた。
予め、ご存知だったらしく、『飼っているという猫の姿を見せなさい』と言われた。朔の夜に、そんな検分が行われる理由は、ひとつしか思い当たらない。
妖猫の存在が、陰陽寮に露見したに違いない。だから、すぐにうずら丸を連れて司を飛び出してきた。
駆け出した私の背から、『猫を陰陽寮に引き渡しなさい』という柿本様の厳しいお声が飛んできたけれど、そんなことできないから振り返らなかった。
うずら丸を安全に匿うことができる場所のあてなど、ない。
けれど、とにかく内裏から出なくては、と必死だった。
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