肆 恋華の、等しく咲き揃う

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肆 恋華の、等しく咲き揃う

近江(おうみ)様。お加減は、いかがですか?」 「……別に」 「左様ですか。本日は桃を持参いたしました。薬にもなりますので、近江様に是非お召し上がりいただきたく」 「……そこに置いておいて」 「はい。それでは失礼いたします」 「……」  御簾(みす)越しに話していた相手が、簀子縁(すのこえん)の向こうに消えていく。ようやく帰った。 「近江様に是非お召し上がりいただきたく、ですって? お気軽に私の名前を呼ばないでほしいわ」  『近江』は、内裏における、(かみ)の女房としての私の名乗り。篤子と呼ばれたわけではないのだから憤慨する必要などないのだけれど、今の訪問者は別だ。  うずら丸を捕縛した、忌々しい陰陽師なのだから。 「正確には、まだ陰陽師を名乗れない陰陽生(おんみょうせい)、だったかしら。ま、その辺の違いはどうでもいいわ」  あの朔の夜以降、養生目的と称して内裏から下がり、大納言家の大津の別邸にこもっている私のもとに二日に一度、あの者は都からやってくるようになった。いつも何かしらの見舞いの品を携えて。 「果物やら、お花やら。そんな物で、誤魔化されたりしないんだからっ。あの者のせいで、うずら丸が居なくなったんだもの!」 ――ぱしんっ!  手にしていた蝙蝠扇(かわほりおうぎ)を、力任せに床に叩きつけた。 「許さない……絶対に許さないっ」
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