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午前3時の奇跡
私はベッドの上で三角座りのまま、顔を俯かせてふさぎ込んでいた。
もう何時間こんな体制ですごしているのか見当もつかない。
無音で真っ暗な室内、ベッドの上にはバッテリーの切れたスマホが転がってる。
少し栗色がかった髪の毛先を人差し指でクルクルと絡めながら小声で呟く。
「はぁ、美容室に行きたい・・・・・・」
思わずいつもの口癖が出てしまった。
ベッドのすぐ横に置いてある目覚まし時計、蛍光塗料で塗られた文字盤を暗闇の中で見ると、すでに午前2時50分が過ぎている。
「もうそんな時間なのね・・・・・・」
体に感じる弱い余震、再びベッドの上で三角座りをしながら顔を俯かせて大きく溜息をついた。
――その時、外でトラックの止まる音が聞こえた。
宅急便が配達に来て自宅前に停止したような感覚。
乾いたブレーキ音がキィキーと鳴った後、ディーゼルエンジンのガラガラという音が止まった。
「こんな状況で宅配かしら? それに、いま何時だと思ってるのよ・・・・・・」
ブツブツと文句を言ってると、マンションの三階に向かって階段を駆け上がってくる足音が耳に入ってくる。
何か嫌だなって思ってたのも束の間、足音は私の部屋の前で止まった。
時計を見ると午前三時ちょうど、私は掛け布団を頭から被り体を丸め身構える。
――玄関の扉をコンコンとノックする音と同時に、聞き覚えのある声が響いた。
「恭子ちゃん、いるの?」
私はベッドから飛び起き、走って玄関へ向かう。
暗闇の室内で床に散乱する雑誌やダンボール箱を蹴り飛ばしながら、靴も履かずに素足のまま扉を開けて玄関を飛び出した。
そこに立っていたのは遠距離恋愛中の彼氏、勝美春樹。
すぐに駆け寄って、私から力いっぱい抱きついてやった。
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