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「ブラックアウトの夜に奇跡がおきたよぅ」
彼の胸に顔をうずめ、そう言いながら思いっきり声を出して私は泣いてしまう。
彼は私の腰に左手を回して抱き寄せ、右手で優しく頭をなでてくる。
七歳も年下の彼氏に甘えてる姿は、誰にも見られたくない。
「だいじょうぶだった恭子ちゃん、、心配したんだよ」
「私だって何度も連絡しようと思ったけど、通じないんだもん」
「まあな、こんな状況じゃしかたない。でも、SNSを見てたら苫小牧がすごいことになってるって」
「ハルくん、あれはね・・・・・・デマが拡散して話しが大きくなってたみたいよ。ごめんね、心配させて」
「そうなんだ、ちょっと安心した」
私より二十センチ背が高い彼の顔を、目尻に涙を溜め見上げたまま、さらに強く抱きしめてやる。
「ちょっと恭子ちゃん、、くるしいんですけど」
「うるさいわね、ひさしぶりに会ったんだから黙って私に抱きしめられてなさいよ」
「あいかわらず強引だね」
「うるさいうるさいうるさいっ!」
再び彼の胸に顔をうずめて、私は強く抱きしめた。
「このまま私の事を一生はなさないで」
「えっ、それって僕に命令してるの?」
「そうよ、悪い」
「いや、悪くないけど・・・・・・」
そう言うとハルくんは私の体を引き離し、手を繋いでマンションの階段を下り始めた。
「ちょっと、どこに行くの?」
外に出て目に付いたのは、宅急便がつかってるのとは違う、背中に箱がない一般的な平ボディートラック。
「まさかハルくん、コレに乗ってきたの? 地元から苫小牧まで4時間以上かけて信号機のついてない暗闇を走ってきたんだ、なんて無茶するのよ・・・・・・」
「農家やってる爺ちゃんから燃料満タンで借りてきたんだ。ガソリンスタンドはどこも休みだし、これしかないかなって・・・・・・それより恭子ちゃん、顔を上げてみなよ」
ハルくんに言われた通り見上げると、美しく光り輝く星空が一面に広がっていた。
「きれいね・・・・・・」
「北海道全域でブラックアウトの大停電だから、町の明かりも消えてるし、そのおかげでこんなにもハッキリ明るい星空が見られるんだよ」
「そうなんだ・・・・・・」
二人ならんで見上げた夜空は、今まで見た事のない綺麗な星空だった。
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