知らずの町

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そんな不安にかられながらも、ようやく暖簾の前にたどり着いた抹茶色の暖簾には♨️のマークが白抜きで描かれてある。 木製の引き戸を開くと、温泉特有の硫黄の香りが漂ってくる。 「なあ、どこから入る?」 広信がそう聞いてきたので 「左から順に」 むしろ効能的に月の湯だけに浸かり続けていたい。 「了解。」 白壁に白木の板張の床だ。 左から順に黄色の地に月の白抜き、赤色の地に竹の白抜き、紺色の地に星の白抜きの暖簾がかかってある。 二人は、黄色の暖簾をくぐった。 すぐに男湯と女湯の暖簾がかかった二つの引き戸の前に出た。 「では」 「じゃあ。後で」 二人はいつものように、別れてそれぞれの引き戸を開けた。
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