知らずの町

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女湯の方はすぐに脱衣場だ。 棚の上には真新しい浴衣とタオルが置かれてある。 早姫は服を脱ぐと籠の中に入れた。 ガラスの引き戸を引くと湯煙が漂ってきた。 「わぁ。」 竹で出来た塀がぐるりと取り囲んでいる。 下は石だ。丸い円形の形の温泉には雨よけの屋根がついている。 上を見上げれば青空が見える。 この旅館に入って始めて空を見たかもしれない。 早姫は全身お湯に浸かると、思わず息が漏れた。 改めて、ぐるりと回りを見てみる。 四方は全て塀で覆われている。 竹の塀の高さは3メートルぐらいだろうか。 早姫は左右を見た。 どちらかが男湯でどちらかが長命の湯だろう。 広信が入ってるだろうから音がするだろう。 早姫は耳を澄ませてみた。 しぃん、としている。 物音ひとつしない。 塀を隔てているだけだから、音は聞こえてくるはずだ。 それとも、竹に防音効果があっただらうか。 早姫は首をひねった。 パシャリとお湯を掻いてみる。 乳白色のお湯はとろみがあり、美肌の美容の効果を期待したい。 たん、 と、音がした。 何の音だと早姫は顔を巡らせた瞬間
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