知らずの町

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◇◇◇ 早姫は怯えるように長い廊下を渡った。 広信を待っていた方が良かったかしら。 そんなことを考えていると、前方から紺色の着物を着た中年の女性が歩いてきた。 中居だろう。 「あ、あの。」 早姫は中居さんを呼び止めた。 「はい、なんでしょう。」 「あの、浴衣を濡らしてしまって、脱衣場に置いてるのですが。」 中居さんの顔が一瞬硬質のものに変わったかのように固まった。 が、すぐに柔らかい笑みを浮かべて 「着たまま入られたのですか?」 それは、疑問というよりも確認に近かった。 「は、はい。すみません。」 早姫は頭を下げた 「いえ、よくあることですので」 「え?」 早姫が訝しげに頭をあげて中居さんを見た。 中居さんは、顔を逸らすと 「なんでもございません。」
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