知らずの町

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視界の先で、パタンと引き戸が閉まった。 (きっと、誰か、他のお客さん。) そう思い込んで、そう思いこまなければ恐怖にのまれそうになる。 早姫は、体を戻し前へと歩いた。 きしり、みしり。 パラパラ、パラパラ きしり、ペタ、きしり、ペタリ 早姫は、思わず震える両手を握りしめた。 やはり、足音がついてきてる。 唇をきゅっと結ぶと、早姫は早足で歩いた。 きしり、みしり、ペタペタペタペタペタ きしり、ペタリ この廊下はこんなに、軋む音を立てただろうか。 この廊下はこんなにも、長かっただろうか。 歩いても歩いても、先が見えない。 こんなにも、暗かっただろうか。 パラパラ、パラパラ 相変わらず、雨音が鳴る。 これは、雨の音なんだろうか? 小さな何かが何かに当たる音。 何に? 何かが、壁に? そう、考えが思い立って 早姫は恐々と、引き戸を見た。 ぶわり、と全身に鳥肌が粟立った。 全ての引き戸がわずかに開き、 何かが見つめていた。 ペタ、ペタリ。 早姫の意識はここで失った。
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