知らずの町

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早姫が勾玉の切っ先に触れようとした瞬間、ずるりと勾玉のチャームは引き戸の中へと引きずられた。 まるで、内側から誰かが引いたように。 早姫は、とっさに勾玉を掴んで自分の元へと引き寄せた。 なんの抵抗もなく自分の掌に収まった勾玉のチャームを早姫は見た。 紐は、なにか鋭利な刃物で切ったかのように綺麗だった。 早姫は、怖々と引き戸を見た。 わずかに隙間が開いている。 この戸一枚隔てた先に、誰かがいるのだろうか。 心臓の音がドクドクと耳元で鳴り響く。 早姫が固唾を飲み込んで、引き戸に手をかけようとした時 「お嬢様ので、ございましたか?」 女将が早姫を立たせようと手を伸ばしてきた。 「あ、はい。落としてしまってた、ようで」 早姫は女将の手を取ると、女将の手は氷のように冷たかった。 早姫の驚いた顔に女将はふふと笑うと 「あら、冷たかったでしょうか。先ほどまで氷を使ってましたもので。」 「あ、いえ。」
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