知らずの町

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早姫が呆然と指についている煤を見ていると、声をかけられた。 「いかがなさいました?」 振り向くと、紺色の着物を着た中居さんがいる。 「あ、指が汚れて」 早姫が差し出した手のひらを見て中居さんは首を傾げた。 「はて?」 早姫は再度、自分の指先を見た。 ……なにも汚れてはいない。 ごまかすかのように、早姫は手を握りした。 「あ、あの。電話がかけれなくて、何度もお金が落ちてきて」 そう言うと中居さんの顔が強張った。 眉間に皺をよせて 「また、ですか。」 「また?」 「ええ、よく壊れるんですの。古いせいかしらね。」 おほほ、と中居は笑った。 「あれでしたら、旅館の電話もございますが。」 「あ、いえ。大丈夫です。」 旅館の人達の前で、この旅館ヤバイかもとは、話し辛い。 それに、この旅館の名前は結姫には伝えられたはずだ。 「そうですか。もし入り用でございましたら、いつでもお申し付けくださいませ。」
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