知らずの町

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◇◇◇ 早姫は首を捻ることになった。 あの姉妹は先に温泉にいると思ったのだ。 月の湯にも星の湯にも、姉妹はいなかった。 ならば、長命の湯だろうかと早姫は入った。 姉妹はいなくとも、広信はいるだろう。 脱衣場で、早姫はドキリとした。 脱衣籠に、赤い浴衣が入っていたのだ。 設置されたものではなく、入る為に脱いだものだろう。籠に突っ込んでいる感じだからだ。 早姫は逡巡したが、タオル一枚で温泉への扉を開けた。 モワァッと湯気が立ち込める。 (あれ?誰もいない?) 広信は、また月の湯からまわりはじめたのかしら。 唖然としながらも、早姫は体を洗い湯船に入ろうとした。 足先がどろりとしたものに触れ、慌てて引っ込めた。 足を見ると、真っ赤だった。 「え…?」 温泉の色が真っ赤に染まっていた。 そこに、黒い、髪の毛が広がる。 「ひっ、」 早姫は、顔を歪ませて叫んだ 「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」
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