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「早姫!どうした!?」
広信が早姫の肩を掴んで揺さぶった。
それまで、早妃は叫び続けていた。
「広、信。ひっ、人が、死んでっっ」
早姫は泣きながら、湯船を指した
「誰もいないぞ。」
もう一度、広信に肩を揺さぶられ、早姫は湯船を見た。
白濁したお湯だった。
赤い色もない、浮かんでいる人もいない。
何もないのだ。
「え…?」
状況が飲み込めずに、早姫は瞬きを繰り返した。
「早姫、誰もいないし、どうもなってない。」
「だって、」
「疲れて幻覚を見たんだよ。」
広信が、勘弁してくれと言うように息を吐いた。
「でも、」
確かに見たのだ。
赤い湯も、そこに浮かぶ髪の長い女性も
「ほら、体が冷えている。風呂に入ろう。」
広信が立ち上がらせようとして、早姫はかぶりを振った。
「ここは、嫌。」
「嫌てっなぁ」
「月の湯の方に入る。」
美肌だし。と早姫は付け加えた。
広信は、ひとつ息を吐くと、早姫の頭を軽くポンポンと叩いた。
「わかった。20分後に外で待ってるな。」
早姫は、こくりと頷いた。
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