知らずの町

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◇◇◇ 月の湯に早姫は湯船に体をつけた。 先程、見たのは何だったんだろう。 広信は、幻覚だと言ったが……。 脳裏に赤い色が広がり、早姫はかぶりを振って打ち消そうとした。 (結姫に会いたい。) 湯の中で自分自身の体を抱き締めた。 こういう時、結姫ならどうするんだろうか。 きぃぃぃぃぃ 木の軋む音がした。 その不快な音に早妃はびくりと体を震わせた。 誰かが入って来たのだろうか。 しかし、足音も人の気配も何も感じられない。 早妃は体を強張らせると、脱衣場を伺った。 何の物音もしない。 早姫は、ごくりと唾を飲み込むと湯船から出て脱衣場へと向かった。 もしかしたら、あの姉妹かもしれない。 少しの期待を込めて脱衣場の扉を開けた。 「…誰もいない。」 ほっ、と安堵した瞬間 きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。 湯船の方から軋む音がした。 「ひっ」 早姫は後ろを振り向けることができずに、急いで扉をしめた。 早く早く早く早く早く早く早く、ここから出ないと。 早姫は、素早く浴衣を着るとぐしゃぐしゃになりながらも帯を巻いた。 整えるのは後でいい。 今は早くここから出なければ。
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