知らずの町

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階段を駆けあがると、豪華な襖絵のある二階でかな臭い匂いを感じて早姫は足を止めた。 廊下に液体が溢れている。 「…なに、あれ。」 誰かがお茶かなにかを溢したんだろうか。 いや、でもお茶にしてはどろりとしている。 行灯に照らされた虎の口が真っ赤で、早姫は小さく悲鳴をあげた。 確か虎は舞香と梨花がいる部屋ではなかったか。 よく見ると反対の襖から、重たい液体が流れ、それが廊下に溢れているようだ。 早姫は、首を傾げた。 虎の反対側はウサギがいなかっただろうか。 だが、襖の絵は植物の絵しかない。 早姫は、ウサギの襖をのノックした。 「あの、何かそちらで溢していませんか?」 だが、応えはない。 早姫は、 生唾を呑み込むと襖を開けた。 もしかしたら、この部屋は空き室なのだろうか。いや、でも中居さんは満室と答えてたような。 「あの。」 早姫は目を見開いた。 目に飛び込んできたのは、鮮やかな赤色だ。 赤いペンキを壁や畳にぶちまけたんだろうか。 室内灯が、チカチカと点滅している。 窓が全開で、生温い風が早姫の頬を撫でた。 テーブル台の下に生白い細長いものが赤い海に落ちていた。 先端には爪がある。 爪を認識して、それが人の指の破片であることがわかり、早姫は悲鳴をあげた。 「いやあぁぁぁぁぁっっ」 早姫は、虎の襖を開けた。 そこも、真っ赤だった。
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