知らずの町

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廊下を渡るとキシキシッと音が鳴る。 長い廊下を挟んで両脇は格子の障子が並ぶ。 照明はレトロなランプが間隔的に釣り下がっているが、どことなく薄暗い。 先頭を歩く女将に付いていきながら、早姫はふと気がついた (あれ、足音二人ぶんしかない。) 古い廊下だからなのだろうか、スリッパで廊下を踏む度にキシキシと音がする。 こちらが、音を出さないようにとそろりと歩いても音が出るのだ。 女将は足袋足だ。 だから、足音がないのだろうか? 内心首を捻る。 両脇の障子が圧迫してくるようで息苦しい。 女将は無言で歩いている。 女将が無言な為、こちらも口を開いてはいけないような気がして口を閉じている。 重苦しい空気に耐えれなくて早姫はあたりを見渡した。 とはいっても障子しかないのだが。 斜め前の障子が僅かに開いていた。 女将がそこの前を通ると音もなく障子は閉まった。 女将は分からないが広信は気づいていないだろう。 それほど、音が無かったのだ。 早姫も注視していなければ気づかなかったかもしれない。 (他のお客さんかな。)
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