知らずの町

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真っ暗だった。 目の前には暗闇が広がっていた。 街灯のない田舎の山の夜とはこんなものだっただろうか? いや、星明かりくらいあるはずだと、早姫は空を見上げた。 鉛色の雲が覆っているのか星すらも飲み込んでいるような漆黒だ。 「つっ!」 どうしよう。と二の足を踏んでいると段々と暗闇に目が慣れてきたのか、空と山の稜線が見えてきた。 記憶を頼りに早姫は駐車場へと向かった。 その途中の植木の間に確か梢は落ちていたはずだ。 「梢さん?」 名を呼んでみる。 心もとの無さにケータイを探すが、見当たらない。 ああ、そうだ温泉に入るからと、部屋に置いてきたのだった。 しまった。と思っても今さら部屋に取りに戻ることはできないし。 「梢さん?どこです?」 暗闇を凝視しながら、ゆっくりと前を進んだ。 ぐちゃり、 足に柔らかいものを踏んで早姫は驚いて飛び退いた。 まさか、と思いしゃがんで手を這わせてみる。 ぐにゃり 肉の塊を掴んだ感触がして、早姫は悲鳴をあげた。
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