知らずの町

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◇◇◇ 「ここが竹無旅館だよ。」 トラックを停めて智也はハンドルを固く握りしめて言った。 暗闇に浮かぶ洋館風の建物は明かりが煌々と窓から光を灯しているが、他の光は一切ない。 「ありがとうございました。」 「待て。」 結姫はお礼を言って車から降りようとしたら智也から止められた。 胸元のポケットから小さな袋を取り出すと結姫に手渡した。 「これは?」 「月桃樹の葉。お守りになる。あいつらはこの匂いが嫌いだから。」 「ありがとう。ここから一人で大丈夫よ。送ってくれて本当にありがとうございました。」 結姫は笑って言うと今度こそ車を降りた。 バタン、 と閉まる音を聞いて智也はハンドルに気合いを入れる為に頭をぶつけた。 唇を引き秘めると智也も車から降りた。 「なに?今さら引き留めるつもり?」 「女の子一人では行かせれないよ。俺も行く。」 智也は軽トラの荷台を漁ると剪定ノコギリを取り出すと腰のベルトに挟んだ。 それから、大きな懐中電灯を結姫に渡す。 「ありがとう。あなたいい人ね。」 結姫が柔らかく笑って言うので智也は肩を落とした。 「貧乏くじを引いた気分だ。」
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