メク・ライセン

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メク・ライセン

「君には才能がある!」  メク・ライセンと名乗る女はどこまでも響き渡りそうな声でそう言った。  僕はまだその時5歳だった。  施設で暮らしていた僕の前にその女が現れたのは粉雪が散る冬の日だった。   金色の髪は腰の長さまであり、絵にかいたような整った顔立ちをしていた。年齢はおそらく20代半ばくらい、グレーのスーツを身にまとい、透き通るようなブルーの瞳はまっすぐ僕を見ていた。  彼女は、自分は量子力学の研究者だと名乗った。  僕はその時たまたま仮想ヴィジョンディスプレイを使って施設の中のシステムに侵入し意味もなく施設内部の情報を覗いていた。  自作の超指向性音声と仮想ディスプレイならだれにもばれないと思っていたが、彼女のブルーの瞳が一瞬淡い赤に染まったのを見てコンタクトデヴァイスでのぞき込まれたと気が付いた。  彼女は僕の横まで来るとしゃがみこんで、僕の真横に顔を近づけた。  ふーんと言いながら笑顔で 「これ、このデヴァイス君が作ったの?」  と聞いてきた。  顔が近すぎてすぐに目をそらした僕は黙って頷いた。彼女のスーツから微かに甘い匂いがした。外の世界から断絶されていた僕には知らない匂いだった 「まあまあ、そう緊張せずに私のことはメクって呼んで」  と明るい声でさらに僕に顔を寄せてきた。
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